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【Livly】誰も知らない物語

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赤い血と青い体


チームに入ってからすっかり夜型の生活が身についてしまったけど、ルチルは朝が好きだった。
朝は黄色だから。自分と同じ色だった。自分のことなんて大嫌いだったけど、自分と同じ色の朝は好きだった。
いつも、一人のときは、いなくなった飼い主のことを考える。
どんな人で、どんな思いでぼくにルチルと名づけたんだろう。
少しでもぼくを好きになってくれたのだろうか。
少しでもぼくのことを考えてくれてるのだろうか。
荒らしチームの連中にも、みんな、ろくでもないが一応飼い主がいた。
自分も飼い主がいたらな、といつもうらやましかった。
大きな指でなでてもらえたらな、と願っていた。
こうして空は群青から白へ、黄色へ、色とりどりに変わっていく。
その瞬間が、好きだった。抱きしめたいほど愛しかった。けれど誰も自分を抱きしめてはくれない。
なでられるって、抱きしめられるって、どんな気持ちなんだろう。

ルチルはただでさえ腹を減らせてばかりなのに、ほかのことにも飢えていた。
それは愛情だった。
心を通わす相手が欲しくて、時には眠れないほど辛かった。
見たことのない温もりをいつも渇望していたのだ。

完全に空が青くなってから、彼は眠る。
眠ってる時間は好きだった。悲しい気持ちにならないで済むから。

なのに何故か、その日はなかなか寝付けなかった。
やたら胸騒ぎがして、ちょっとした物音にも敏感に反応した。
誰かが来る気配がした。


もしかして、友達になってくれるかもしれない。今までそんな人いたことなかったけれど、彼の六感が叫んでいる。
誰かが来る。
その予感は見事に当たっていた。足音がした。それも、かなり大きい。
ルチルは島の入り口の方へと走り出した。

「と、ともだちに」

心の中で何度も練習した言葉だった。友達に、なって。


その訪問者は、今まで見たどんなリヴリーとも異なる姿をしていた。


そう、リヴリーではなく――――――ジョロウグモだった。


彼の島にモンスターが来たことなんて、初めてだった。だからルチルはモンスターを見たことがない。
馬鹿なピグミーは、そのジョロウグモをしばらく見つめていた。
それは宝石のように、あるいは海のように美しい青色だった。
ジョロウグモの体は鮮やかな青色をしていたのだ。
そして、その青い体とは全く反対の赤い血が、体中からだらだらと流れていた。
そのミスマッチが、ルチルにはますます美しく見えた。と、同時に胸が引き裂かれるほど痛くなった。

「だ、だ、だいじょうぶ?!」

慌てて転びそうになりながら駆け寄り、その傷口をなでる。もちろん、治療技なんて覚えているはずがない。覚えていてもルチルの技の使い方なんててんでなってなかった。
かわいそうと大丈夫を交互に繰り返しながら、彼は傷口を労わるように撫で続けた。
どこかに包帯の代わりになる葉っぱとかあったかな。チームの人、わけてくれるかな。
青いジョロウグモからは鉄くさい匂いがした。血の匂い。彼には嗅ぎなれないものだった。思わず顔をしかめる。
そうだ、リーダーに聞いてみようと思った。
さっきは冷たく突き放されたけれど、結局こういうとき頼れるのはリーダーしかいなかったのだ。
ルチルはどんなにひどいことをされても、リーダーはきっと優しいリヴリーだと決め付けていた。
優しくされたことなどないが。

「まっててねぇ。リーダーにきいてくるから・・・」


そのとき、ルチルの小さな体が、簡単に飛んだ。
切り株に頭をぶつけなければ、島から落っこちてしまうほどだった。
痛みより、驚きのほうで勝っていた。投石されたときの非にならないほどの強い痛みだったが、それでもいきなりの出来事に気が動転していた。
彼の黄色い体にも、赤い血が流れる。ジョロウグモ以外の血で、自分が赤くなる。
自分の血を見たのは初めてというわけではないが、こんなにたくさん流れることに驚いた。体の中身まで黄色一色ではなかったのだ。
ルチルは大きな瞳をますます大きく見開いて、ほとんど息が出来なかった。掠れた声で「どうして?」と問うた。

「来るな」

美しい青からは想像できないほど低い、シューシューとした枯れた声で、ジョロウグモは言った。小さな声だったが、それは狭い島によく響いた。
その無数の目に見えるのは、紛れもない憎悪と殺気だった。
このジョロウグモはモンスターだ。先ほどまで大量のリヴリーたちに追いかけられ、痛めつけられてきたのだ。
リヴリーは天敵同然、よってルチルを敵とみなすのも仕方のないことだった。
しかし、反対にルチルの瞳に映るのは、恐怖ではなく哀れみだった。
ルチルの顔が歪む。
かわいそう、と、彼はまた繰り返す。
近づいてきたルチルを、ジョロウグモはまた突き飛ばした。
けれど、ルチルはあきらめずに、立ち上がった。死ぬかもしれないなんて考えなかった。
彼にもう一つ馬鹿な点があるとすれば、相手の殺気を受け取れない鈍さだ。
ジョロウグモは、死ぬ前にこいつは逃げると思った。逃げるならむしろそうしてほしかった。自分にはほとんど体力が残っていないから余計戸惑う。
それでもルチルは立ち上がった。たくさん血が流れて、くらくらしていた。
そして、驚くことに、彼は笑っていた。
口元を滑稽に歪ませて、まるで嬉しそうに。楽しそうに。
ジョロウグモにとって、それは腹立たしいことだった。
このピグミーは狂っているのだろうか。それは狂人に見えてもおかしくない行動だった。ジョロウグモはさらに攻撃に移ろうとした。
だが、動きを止めてしまった。
彼の不明瞭な言葉の意味が理解できてしまったからだった。

「だいじょうぶ」

まだ、彼はそう言っていた。

「だいじょうぶ、ぼくは、キミを傷つけるようなことはしないから。信じて。助けてあげるよ」

一瞬だけ眉をひそめた。

「ごめんね、痛いんだよね。わかってあげられなくてごめんね。でもぼく、泣けないんだぁ。えへへ」

彼は泣けなかった。一時何度も何度も泣いていた時期あったのに、気づいたら泣けないピグミーになっていた。
泣き方を本当に忘れてしまっていた。
流せるものがないから、余計胸が詰まって痛かった。こんなに、かわいそうなのに。

「かわいそうだねぇ?だいじょぶ?痛いよねぇ・・・?」

このジョロウグモは賢かった。それが哀れみであることくらい、わかっていた。
普通だったら憎むべきその哀れみがあまりにも不意すぎて、胸に刺さった。
ルチルはまた笑顔になった。相変わらず、痛そうに、辛そうに。

「今よくなるからね?すぐに治してあげるからね。リーダーならきっとなんとかしてくれるよ。だいじょうぶだいじょうぶ。」

ルチルはどんどん距離を縮めていく。
ジョロウグモにはそれが攻撃の構えには見えなかった。
両手を広げたそれは、慈愛に満ちている。
抱きしめようとしている。
モンスター相手に。お互いの傷を舐め合うように。何故かというと、彼は馬鹿だから。これしかいえることがない。
ジョロウグモも虚を突かれたのだろうか、それとも警戒を一瞬でも解いたのだろうか。動きを止めた。

「キミはどこからきたの・・・?」

ルチルもルチルで、今まで誰かにこんなことしたことがないから緊張していた。