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【Livly】誰も知らない物語

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ルチル


その黄色いピグミーは、「ルチル」と言った。
ルチルは自分を捨てていった飼い主の顔も、自分の誕生日も思い出せなかったが、名前だけが自慢だった。
そしてそいつは今日もパシられていた。
今日、彼に与えられた命令は、みんなのご飯である虫を買ってくること。
空腹のせいで、腕の中の虫たちがとても美味しそうに見えた。
けれど、食べることは許されない。リーダーの命令だから。ルチルは三日間何も食べていなかった。それでも命令は絶対だった。
名誉のある大事なお仕事なんだと、リーダーは言っていた。
たかが虫を運ぶことが、だ。
ほめてもらいたかった。お前は黄色いけれど立派な仲間だよ、と。もちろん、そんなこと言われたことなんてまだ一度もなかったけれど。
リーダーの島をのぞくと、今日も夜な夜な集会をやっていた。
チーム「モノクロ」の活動はいつも深夜だ。それがルチルにはかっこよく見えてしょうがない。
本当は、どの島めちゃくちゃに荒らすかという実にレベルの低い議会だったのだが。
「おい、サルがきたぞ!」
仲間は誰一人、ルチルと呼んでくれなかった。「サル」とは、人間の世界にいる動物のことらしい。
ルチルはどもりながら、自分の功績をアピールしようとした。

「あのね、ボクね、がんばってね」

そんな舌っ足らずな話も聞かず、連中は次々と腕の中の虫を取っていく。あぁ、自分の分は残るのだろうか。だめだ、みんなおなかすいてるんだと自分を抑える。
しかしどうしてもよだれがとまらない。それに気づいたクンパが、げらげらと笑った。こいつももちろん、ルチルと違って、夜の闇より真っ黒な体。

「サルの奴、よだれなんて垂らしてるぜ!」

「ご、ごめん、そんなつもりじゃ」、と狼狽するルチルだが、そんな言い訳も全部笑いの渦に飲み込まれてしまう。しょうがないから、自分もえへへと笑っておいた。
そして、誰かが投げつけるように彼にカブトムシを渡した。黒い連中には必要のない虫。これでまたルチルがチームから色が一歩遠ざかるのもおかまいなしだ。
ルチルは意地悪な視線にも気づかず、礼を言って、大きな虫をほおばった。
意地汚い食事タイムが済むと、すぐに集会は始まった。
黒地に、まぶしい白い星印・・・それが、「モノクロ」のチーム帽だった。ルチルもすぐにそれをかぶって、集会に仲間入りした。
彼に難しい言葉はわからない。否、優しい言葉でさえ、理解するのにうんと時間がかかる。まあ馬鹿だからしょうがない。
それでも、この帽子をかぶって集会に参加していると、自分もチームの一員なのだと誇らしく思えた。

「じゃぁ、ソクラテス島だな」


そう言ったプリミティブトビネも、もちろん黒い体をしていた。
切れ長の瞳が全員を眺める。彼がリーダーだった。
リーダーは恐らく「モノクロ」の中で一番寡黙で、レベルだけは高いもののその素性は誰も知らなかった。
ただ瞳だけが冷たく光っていた。
その視線の中に自分が入るようにと、ルチルは思わず背伸びをする。ルチルは小さすぎて、なかなかみんなの視界に入らないのだ。
このクールに見えるプリミティブトビネに憧れて、ルチルはチームに入った。パークでも常に冷静に集団を率いているその姿が、とてもまぶしかった。「モノクロ」がパークに来ると、他のリヴリーたちは慌てて退散してしまうのだ。しかしそれは「モノクロ」があまりにもトラブルばかり起こすから、揉め事に関わりたくないという常識人たちの行動だ。
でも、それを知らないルチルはいつかリーダーのようになりたいと思っていた。

「何か意見があるものは?」

この言葉を言うたび、全員が野次を飛ばす。「俺あの島の奴がむかつく」、「さっき可愛いパキケを見つけた」、「あぁ早くモンスター殺したい」、まともな意見を言う奴なんていた試しがない。
一人を除いて。

「はぁーい!!」

高らかに手を伸ばす。といっても、そんなことをしても、リーダーの鼻先に届くかどうかなのだが。

「あのねー、ぼくねー、次のリーダーになりたいでーす!!」

最初に、カブトムシを投げつけたクンパが噴出した。
その次に、隣にいたブラックドッグが。そして、そのまた隣のネタツザルが。笑いはどんどん感染していく。
そうして、リーダーを除いたすべてで、大爆笑になった。
えへへ、そんなに良いこといったぁ?とルチルはおどける。さらに笑いは大きくなる。
サル、やっぱりお前って最高だよ――――――そうほめられて、ますます嬉しくなる。

「馬鹿」


その一言で、水を打ったように静かになった。
馬鹿。それは、リーダーがルチル一人に向けて言った言葉だった。

「あんまりふざけたことばっかり言ってると、チームからはずすぞ」

「えへ、えへ、えへへ・・・ごめんなさぁい。」

また失敗しちゃったよ。なんだか泣きたくなる。けれど、まだみんながにやにやしてるから、一生懸命笑って見せた。笑ってると、ちょっとは楽だから。

「んじゃ、そういうことで、今夜は解散。また明日。」

そして、リーダーが自分のねぐらに戻っていく。
みんなもばらばらと帰っていく。
誰もルチルに話しかけようとしない。
空気だ。都合の良い空気扱いだった。
ルチルはそれに気づかず、ねぇねぇと声をかける。いっしょに帰ろうよ、さっきのそんなに良いこと言ってた?ねぇねぇ。
みんなは無視をした。当たり前のことだった。
むなしく、声は夜の静寂に消えていく。
不意にまた、泣きたくなった。

(ぼくが、黄色いから仲間に入れないのかな)

吐くほどアリを食べても、体は黄色。そして小さいまま。体の中身なんて腹を掻っ捌かないとわからないが、何を食べてもルチルの体は変化しなかった。もしかして、リヴリーとして欠陥品だから捨てられたのかもしれなかった。
それは見るものを虜にする美しい色だった。しかし彼は自分の美しさに気づかなかった。それも馬鹿な点だ。
その美しさは、彼の憧れる「モノクロ」という荒らしのチームでは必要のないものだった。毎日「仲間」と呼ぶ連中に命令され、時には石を投げられ、嘲りの笑みをぶつけられる。
それでもやっぱり、馬鹿なピグミーだ。そして優しい奴だ。そいつらのことが好きだった。
集会のたびに、いつだって目立ってしまう黄色い体。
夜の闇にもよく映えた。嫌味なくらいだった。