Sena
序章
「どうしたボウズ? 疲れたか。ああ?」
野太い声が無造作にたずねた。
セネカは弾かれたように面をあげた。
前方を歩く声の主を仰ぎ見て首を横に振ったものの、本当はひどく疲れていた。
山の狩場からずっと歩きづめだったし、抱え込んだ弓と肩から提げた矢筒はずっしりと重く、腕がしびれるほどだったからだ。
セネカはふうと大きく息をつき、首をめぐらせて筒の中の矢束を恨めしげに見つめた。
腕も足もくたくただったが、ここで弱音をはくわけにはいかなかった。なにしろ、荷物を持つと申し出たのは自分のほうなのだから。
セネカは弓の持ち手を握り直し、半ば肩口に食い込んだ矢筒の紐をぐいと引っぱり上げた。
「気張って歩けよ。じきに村に着く――ほおれ! あれが俺の村だ」
一段と大きく張り上げた男の声が合図となり、一旦はゆるみかけた足並みが調子を取り戻した。
男が指し示す方角に視線を向けた。
前方に拡がる景色の中に、小さな集落があった。
密集する家々を遠目に見据えながら、セネカは再び辛抱強く地面を踏みしめた。