肖像画の少女
「きみがよく見えるようにさ。」
「お祖母さんはどこにいるの?」
「ぼくたち二人のほかはここには誰もいないのだよ、愛しい人。」
そのときすさまじい遠吠えがまわりじゅうから聞こえてきた。
「わたしたちのためにキャロルを歌いにやって来たのは誰なの?」
「あれはぼくの兄弟たちの声だよ、愛しい人。
ぼくは仲間の狼たちが好きなんだ。」
狼たちの哀歌がつづくなか、彼女は真赤なショールを取り去った。
そして恐怖が何の役にも立たないことを知った彼女は怖がるのをやめた。
「ショールをどうしようかしら?」
「火に投げ入れるのだよ、愛しい人。もう二度と必要ではなくなるからね。」
「ブラウスをどうしようかしら?」
「それも火にくべるのだよ、可愛らしい人。」
それからスカートや、ウールのストッキングや、靴などを脱いで火にくべ、
それらは永久に消え去ってしまう。
まだ男に触れられたことのない、眼のくらむような裸体姿のまま、
彼女は赤い眼をした男の傍へとまっすぐ進んでゆく。
そして爪先で立って男のワイシャツのカラーをはずすのだ。
「何て大きな腕をしているの。」
「きみを抱きしめやすいようにさ。」
男にキスをたくさん与えているときに、
窓の外では、すべての狼が祝婚歌の遠吠えをしている。
「何て大きな歯をしているの!」
「きみを食べやすいようにさ。」
少女はいきなり笑い出した。
自分は誰にも食べられないということを知っていたからだ。
彼女は狼の顔じゅうに笑いかけ、狼のシャツを強引に脱がし、暖炉の火の中に
それを投げ込んだ。
肉食獣の権化。ただ純潔な肉体のみが狼の気持を和らげる。
ごらん!彼女はお祖母さんのベットのなかで、優しい狼の足のあいだで、
気持よさそうにぐっすりと眠っているではないか。