ヴァンパイア
さっきまで夜景にはしゃいでいた君が黙り込む。
シングルルームの窓からは何も見えないのよ、こんな景色が見えるのね。何度もここに泊まっているのに、初めて見たわ。やっぱりこういうのはダブルかツインの部屋からしか見られないのね。今度からダブルルームのシングルユースにしようかしら。
携帯で呼び出して部屋にこっそり招き入れると、何かをごまかすように窓の外の景色に歓声を上げていた君。
しばらくそのまま見つめ合った後、背後から自由を奪い取る。
まっすぐな黒髪に顔を埋める。今日一日、彼女が歩いてきた場所の匂いがする。初夏の匂いに混じって。
「どうしたの?」
「どうもしないよ」
顔を上げて答える。
窓に、彼女の緊張した笑顔が映っていた。
シャツからのぞく白い首筋に、唇を押し当てる。
腕の中で、驚いたように微かに彼女が動いた。
ふと、そのまま肌に歯を立てた。
「痛…っ」
小さい悲鳴が上がる。腕の中で体をよじる。
振りほどかれないように腕に力を込めた。
この瞬間に君の全てを奪い取れたらいいのに。
ヴァンパイアのように。