顔のない花嫁
狭間ノ刻
「ああ、またダメだわ」
暗い闇の中で"彼女"は呟く。
「これじゃあ全然ダメ」
何がダメなのか分からないが、とにかく"彼女"がひどくご機嫌斜めなのは誰の目にも一目瞭然だった。
"彼女"は怒りに任せて近くに置いてあった本を弾き飛ばす。
その本には、何が書かれているのか分からなかったが、とにかく分厚い本だった。
本が床に堕ちてゴトリと大きな音を立てる。闇の中に反響するその音を聞きながら、彼女は笑った。
「でも、大丈夫」
そう言って、彼女は机の上に置かれている砂時計を手に取った。
「私は諦めない」
それから彼女は同じく、机の上に置かれている男性の写真に手を伸ばした。そこには幼いころの自分と共にあの人の笑顔が写っている。彼女は写真にそっと口付けした。
「必ずあなたの花嫁になるから」