ファルコン
こんな商売だ。いつ離ればなれになってしまうかもしれない。
だからこそ、アイツの身体を抱いて寄り添って眠る日々が何よりも大切だったのだ。
あの金色の髪のガキが現れるまでは。
俺とアイツが闇取引の宇宙航行というしがない商売を始めてから5年になる。
最初見た時からアイツという男は最高に俺のタイプで宇宙船で二人きりになる、という状態に果たしてどのくらい我慢できるか自信はなかった。
そう、俺は根っから男が好きで女には興味がないんだ。ちょっとした縁でアイツと密輸の相棒になる算段を決めた時、俺の心の中には欲望が渦巻いていた。
地球人の中でも背が高くがっしりした肩と大きな手を持っている。太くて長い指は俺よりは幾分小さめだけど、それは俺が地球人に対してはでかすぎるというだけのことだ。俺の毛の色よりもう少し濃い色の髪は短くしている。俺の仲間は地球人はどうもね、という奴もいるが俺は地球人の姿形を好んでいるし、男、と言う種族には堪らない性的魅力を感じてしまうんだ。
特にアイツはそうだった。
で、そんな邪な欲情を厚い胸毛の下に隠して俺はアイツと共に乗り込む宇宙船が待つもぐりの宇宙船港へ向かうため、安酒場で落ち合うことにしていた。
アイツより遅れて店に辿り着いた俺の目に入ったのは酒場の隅で地球人の女とキスしているアイツの姿だった。こういう商売をしている男には不釣り合いの清楚な風情の良い女だったのが余計に癪に触った。
この時ほどがっくりしたこともなかったよ。けど、俺の腹の下は別の情欲でむずむずし始めた。
どういうものかわからんが、同じ欲望を持った男より、女好きの男はもっと好物なのだ。
俺たちのような慣れた宇宙海賊にとっても宇宙間密輸というのは簡単で安全というわけじゃない。いつ宇宙パトロール船に捕まるか常に危険と隣り合わせだ。捕まれば牢獄惑星と称される宇宙の果てのような惑星へと放り込まれるのは見えている。相棒にするのは頭が切れて勇敢な奴を選ぶのに越したことはない。あいつはそういう意味でも頼りになる奴だ。とはいえ俺は例え捕まったところで逃げる道も二、三は知っている。だが、宇宙戒律をかい潜ってちょっとしたぼろ儲けをするのは代え難い快感だ。それと同じくらい代え難いのがいいガタイの男を抱くことなんだが、まさにそういう男を相棒にして素知らぬふりをしながら船の梶棒を握っているのは到底無理な話だった。
それまでは仕事上の話に終始していた俺がつい口を滑らしてしまった。
「いい女だったな」船の中で簡単な食事をしながら俺は話しかけた。
「なんだ?」突然の話題に眉をひそめる。目はダークグレイで眼差しは真っ直ぐで心地良い。
「ほら。船に乗り込む前に会っていたあの」
「ああ」思わずやや頬を赤くする。それを見てますます俺は好感を持った。「あいつは・・・可愛い女だな」
その答えは俺を殴りつけた。
「へえ。結婚する気か?もうしてるのか?」
「まさか」苦笑する。「こんな商売をしてる俺に所帯は持てないだろうさ」
「また会うのか?」
「そうだな。会えるのならそう願いたいよ」
はにかむ顔が癪に触った。
それからアイツが休憩すると言って自室に入った後、俺は自分の欲望をどうにも止められなくなった。それでアイツが俺を拒否するなら、それでかまわない。
俺は部屋のドアに触れた。どうせ鍵がかかって入れないがどうするか、と考える間もなくドアは開いた。
「ハン?」
ベッドにはアイツが横たわっている。薄暗い灯りの中で長いすねとそこに体毛が柔らかく生えているのが見える。巨体で毛深い俺とは違うが力強そうな筋肉に覆われた脚は毛布からはみ出している。毛布はアイツの局部を隠しているが、それでよけいにそれを剥ぎ取ってしまいたい衝動に駆り立てる。
俺はもう何も考えきれなくなってアイツのベッドに近づき黙ったまま覆い被さった。
シャワーを浴びたんだろうか。なにかいい香りがする。俺たち種族からすればアイツら地球人は匂いが薄い。
ハンにとっては迷惑でしかないだろうな、俺の体臭は。
だがもう身体が動き出すままに俺はアイツの身体を抱きしめた。
「ん」アイツはかすかに目が覚めたのか小さく呻いた。もう終わりだな。
と思ったが、アイツの腕は俺の身体を抱き返してきた。
まさか、あの女と間違えてるんじゃないよな。大きさが違いすぎるだろ。俺は焦った。
だが、アイツはその腕を俺の背中にまわして毛深い身体をまさぐるように動かす。いくらなんでも判るよな。
その手の感触はぞくぞくするほど心地よくて俺のものはもう悲しいほどはち切れそうになっている。
アイツのモノを隠していた毛布はいつの間にかずれてしまったか、俺が無意識にどかしたか、それとも勢いよくそれが撥ね退けてしまったのか、さらけ出されてしまっていた。
あ。アイツのものもぎんぎんに固くなり、先からは誘うように液が溢れている。
俺は一瞬動けずにそれを見つめていた。
途端にアイツが俺の身体を引き寄せた。
「どうしたんだ?続けろよ」
どちらともなく噛みつくようなキスをすると俺たちは快楽の中に沈み込んでいった。