夏の記憶
「確かこの辺…」
もう何年になるんだろうか、ちょうど今頃の季節だった。あなたが怪我をしたと聞いて、コンビニに氷を、薬局へアイシングスプレーを買いに走った。その次の日だ。
買い物に出た時、高架線の下で偶然会って(と言っても同じ場所で働いているんだけれど)、「昨日はありがとね」と言われた。
「あれ、何で私だって知っているんだろう」そういう疑問はあったけれど、暑さと、周りに関係者がいない所でふたりでいる事の嬉しさに、私はその疑問をぶつける事もなく、言葉少なに返事をした。
何と言ったのかは覚えていない。
なんて馬鹿だったんだろう。なんて一生懸命だったんだろう。
…なんで好きになったんだろう。
その時既に他の女のものだった、あなたを。