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bon voyage 3

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 『塔』にこっそり入り、エレベータで自室のある三四階へ昇る。そろそろ授業が始まる時間だ。
「どこへ行ってたんだよ」
 部屋へ入ると、同室のイェールがこちらをにらんで立っていた。
「散歩だよ」
 きつい視線を受け流して自分の机のコンピュータを起動させる。軽い音を立てながらログイン画面が表示された。
パスコードを打ち込む間も、背中に視線を感じる。
 こどもたちの部屋に窓はない。規則的に二人一室。二段ベッドにそれぞれの机。それぞれのコンピュータ。クロゼット。それだけの殺風景な部屋。バスルームとトイレは部屋に入ってすぐ右手。
廊下に出ると、部屋とは対照的に一面が窓。しかし全てはめごろしで二重になっていて、外の空気が入る隙間はない。壁側にはドアが端から端までずっと並んでいる。
 コンピュータが立ち上がると、ぼくは『すみれ』を検索した。『塔』の中枢コンピュータには、この世のすべてが収められているという。
 すぐに小さな花が表示された。
「すみれいろ」
 小さくつぶやく。たしかに、ぼくの目と同じ色だった。ちいさい花。
「なにそれ」
 イェールが不機嫌な声でのぞきこんできた。彼はいつも何かに腹を立てている。ぼくが原因であることが多いけれど。
「すみれ」
「花?そんな課題出てたっけ?」
「そうじゃないよ。ぼくの目がすみれの色だと言われたから。どんな色なのかなと思って」
「だれに」
 だれ・・・だろう。
 ダタ。
 名前を聞きたいわけじゃないだろう。でもぼくも彼のことを何も知らない。気安く他人に話してもいいものなのかもわからない。それに、なんだかダタのことはぼく一人だけの秘密にしておきたい気がした。
「知らない。別の階の子」
 うそを、ついた。
「ふぅん。たしかに同じ色だな」
 特に怪しむこともなくイェールはコンピュータに視線を戻した。
「色だけじゃなくて、この花、スイに似てるな」
「そうかな」
「うん。小さくて・・・」
 最後まで言い終える前に、ブザーが鳴り響いた。授業開始の合図だ。イェールも話を切り上げて枯れの机へついた。
 ブザーと同時に『塔』のこどもたちは一斉にヘッドフォンをして、自分のプログラムをこなし始める。これが授業。
作品名:bon voyage 3 作家名:めぐる