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bon voyage 2

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 こどもたちはみんな、透き通るような髪に白い肌。水没を免れた丘に建つ、真っ白い『塔』に住んでいる。同じ服を着て、同じ学校に通う。
 少し癖のある黒い髪にそばかすの浮いた褐色の肌。彼はどの子供とも違う色をしていた。
 朝日を背に名乗った彼は、ぼくの座る場所へ飛び移ってきた。
「おまえは?」
「スイ」
 ぼくが答えると、彼は笑顔のまま、そうか、と言った。
 こどもは多くないけれど、『塔』の階層が違うとあまり顔を合わせることもないので、ぼくが知らないだけで、ダタもここに住んでいるのかもしれない。
「『塔』に住んでいるの?」
 見たことのない服を着ているので、『塔』ではさぞ目立つだろう。『塔』に住むこどもの服はみな、母星に住む大人から送られたもので、みんな一様に紺の襟付きシャツに白いタイ。紺の膝丈パンツ。靴下にブーツまで同じものだ。けれどダタの着ているものはそのどれとも違う。まず上着を着ていない。裸の胸におおぶりのアクセサリー。短いパンツにブーツ。腰には大きいバッグが巻かれている。
「住んでない」
 ぼくの隣に腰を下ろす。
「遠くから来たんだ」
「遠く?じゃあ母星から来たの?」
 どう見てもそんな年齢には思えない。母星には大人しかいないのだ。子供たちは十八歳まで『塔』で暮らし、約束の時が来ると『塔』のどこかから母星へ行く。ダタはどう見てもぼくと同じくらいだ。
「もっと遠いところ」
「そんなの習った事ないよ」
「だろうな」
 ぼくから目を離し、ごろんと横になった。
「スイはここがすきか?」
 そうだ。さっき彼はなんと言った?

『世界を再起動させにきた』

 どういう意味だろうか。
「すきってどういうこと?」
「そのままだよ。ここがすきか?」
だんだんと姿を現す太陽から隠れるように、ぼくは建物の影に入る。子供たちは日の光があまり得意ではないから。
水没した石の建物の影に用心深く抱かれながら考える。
「すきだよ。『塔』ではなんの不自由もないし、外に出るとこんなにもきれいだ。外に出るのにいちいち許可が必要なのが難点だけどね」
もちろんそう簡単に許可がおりるわけもなく、ぼくは毎回、ぼくしか知らない抜け道からこっそりと外に出ている。
「そうか」
 日の光を体いっぱいに浴びながらダタは笑う。まるで太陽のように。
「日の光がこわくないの?」
「こわい?なぜ」
「ぼくたちはいろが薄いから、あまり日にあたるとよくない」
 よく焼けたダタ。
「そうだな。スイはきれいだ。髪も肌も白くて、ああ、目はすみれ色なんだな」
 まっしろなぼく。
「すみれ?」
「そう。スイの目と同じ色をした花だよ」
 すみれ・・・。『塔』に帰ったら調べてみよう。
「もう戻らなくちゃ」
「そうか」
「また会える?」
「ああ。明日の同じ時間に、またここに来よう」
 言ってダタも立ち上がった。
ぼくも手に持っていた帽子をかぶって、陰を選んで道を戻る。水面から顔をだしている石の上をよちよちと飛び移っていく。
 振り返ると、もうダタはそこにはいなかった。
作品名:bon voyage 2 作家名:めぐる