暗闇での逢瀬
たった2時間だけ、あなたは私の隣にいる。
前売りチケットを2枚買っておいて、あなたが私に、時々私があなたにその1枚を送る。
私は先に席について上映開始を待つ。
あなたは暗くなってから入って来て、話もせず、並んで映画を観て、ひとりでエンドロールが流れているうちに出て行く。
間際、膝の上の私の手をそっと握って、耳元で一言だけ囁く。
私だけにくれる、あなたの言葉。耳が蕩けてしまうぐらいの一言。
客席が明るくなってもすぐに立ち上がれないのは、映画の余韻だけのせいじゃない。
握られた手と、囁かれた耳に残るあなたの余韻。
暗闇での逢瀬。