仮面
信号─シグナル─
俺の頭の中で脳細胞が壊れてく。一秒ごとにどんどん。シナプスがぶっ壊れて、わけの分からない状態に冒される。
(あァ、死ぬんかな)
べつに格別に生きたいわけじゃないけど、死にたいわけでもない気がする。単なる俺の我儘。
(って言うかそもそも脳細胞がイカれたくらいで死ぬわけない。馬鹿だ俺)
そんなこと考えられるくらいなら十分マトモだよと自分に言い聞かせて立ち上がる。多分どっか行かなきゃいけないところがあるはずだった。けど、それがなんだったのか思い出せない。
走ろうと踏み出しかけた足を止め、ぴたりと立ち止まる。ブォンッ!と車が横を通り過ぎてった。バカヤロー飛び出して来る気かとかなんとか叫んでる。
「そんな馬鹿なことするかよ」
どうせ聞こえないんだから言ったって無駄だってことは分かってるけど。
何をしたいんだろう、俺は。
何を望んでいたんだろう、俺が。
否定され続けた俺自身が、もうどこに立っているのか、あるいは立っていていいのか分からない。
「俺に───価値なんてあるのかよ」
ぼそりと呟いた言葉が本心なんだと気づくのに大分時間がかかった。気づいてあぁそうなんかと息を吐く。
俺はただ認められたかったんだ。
ここにいるってちゃんと認識してほしかっただけだ。ただの子どものすることじゃねぇか。
脱力する。座り込んだ灰色のアスファルトはつめたくて、なんの感情の色もうつしだしてはくれなかった。