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夢の運び人10

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 僕は真っ白のパソコンの画面を眺めながら煙草を吸っていた。
 吐いた白い煙がパソコンの画面に当たり、ぶわっと拡散する。この煙が文字を並べてくれたらいいのにとあり得ない事を思ってみて自分で呆れた。
 中学の頃から趣味でやってきた物書きだが、そろそろ潮時なのかも知れない。ここ最近はアイディアが枯渇していてまるで手が着かないのだ。
 とは言っても僕はプロの作家ではなく、広大なインターネットのサイトに投稿する程度の、作家とも呼べないただの一般人だ。無理に書く必要はない。
 僕は独りで納得してパソコンの電源を切って、ベッドに潜り込んだ――

――誰かが僕に語り掛けている。何と言っているのかは分からない。辛うじて分かるのは男の声だということだ。
 僕は目を開けた。そこには崩れ掛けたビルを背景に男が立ってる。清閑な顔をしていて、手には飛行機のパイロットが被るようなヘルメットを下げていた。
 彼は僕に近づいて口を開いた。声は聞こえない。ただ口が開いたり閉じたりしているだけ。
 彼が何と言っているのかは文字となって僕の頭に流れ込んだ。
『ありがとう』
 そう言われた気がした。
 ふっと彼の後ろから現れた二人を見て、僕は彼等が誰なのか確信を持った。
 現れた二人は男女で、一人は整備員のような作業服を着た若い男。もう一人の女性は背が高く、整った顔をした人だった。
 彼等三人は僕が高校生の時に書いた小説の主人公で、その作品は僕が唯一飽きずに完結させた長編だ。
 僕は初めて見る彼等の姿に、ただの空想のキャラクターなどではなく、幾多の文字で生きているのだと思い涙を流した。
 そんな僕を見て彼等は微笑み、静かに消えていく。
 崩れ掛けたビルの背景が、今度は薄暗い一本の路地に変わる。
『どうして……』
 僕の頭で文字が言葉を作った。
『どうして殺したの?』
 僕が振り返ると一人の女性が歩み寄って来る。薄暗い中で顔ははっきりとしないが、僕には見覚えがあった。
 確か彼女は、僕が高校生の時に書いた、完結できなかった恋愛小説の主人公だ。同じ歳の男性と恋人になるが、男性が事故で死んでしまうストーリーだったと思う。
『教えて……どうして殺したの?』
 僕は息を呑んで、彼女が一歩近づく度に後退りする。
『話が単調で面白くなかったから?』
 図星だった。当時の僕には単調に見えて、山場を無理矢理作ったのだ。
『殺す事なかったじゃない……彼が死ななければ、私たちは今でも幸せだったのに!』
 気が付くと彼女は僕のすぐ側まで来ていた。涙が溢れる大きな目が僕を申し訳ない気持ちにさせた。
 さらに彼女はどこからともなく包丁を出して僕に向ける。しかし僕は動じなかった。僕を殺す事で、僕が生み出した人間が報われるのなら、それもいいのかもしれない。
 そう思った時、僕の手を何者かが後ろから引っ張った。力はそれほど大きくなく、手が小さい事から子供であると察した。
 手の主を見ると五歳くらいの男の子で、着いて来てと言うように薄暗い路地を走って行った。
 僕は包丁を向ける彼女に心の中で謝ると、男の子を追って走り出す。
 しばらく走って、周りが薄暗い路地から青空の広がる草原へと変化した。
 走っていた男の子が立ち止まる。それを見て僕も立ち止まった。
 振り返った男の子は、悪戯をした後のように笑顔を見せて言った。
『僕の夢、楽しかった?』
 頭の文字が男の子の言葉を作る。僕は黙って頷いて見せた。
 すると男の子は満面の笑みを僕に見せて、すうっと消えていった。
 僕には不思議とあの男の子が何者なのか分かる。
 あの男の子は夢の――

――僕は目覚めた。
 不思議で奇妙な夢だったが、飛び起きる事もなく、静かに目が開いた。
 目覚まし時計は七時を指している。大学に行くまでまだ時間がある。
 僕はパソコンを起動して真っ白の画面に文字を打ち込み始めた。
 一通り文字を並べてタイトルを着ける。タイトルは――夢の運び人。
作品名:夢の運び人10 作家名:うみしお