蝶
10月の宮古の海は波が高い。
白い岩の上の松が風に揺れていた。
波しぶきが真理恵の頬に当たる。
いつの間にかそんな近くまで来ていた。
このまま歩いていけばいい。
あの龍泉洞の透明な水を思い出していた。
いくら透明な水であってもいつかは見えなくなる。
真理恵は宏の心は見えていたつもりであった。
悲しい。
見えなくなったら潜ればいい。そうは思っても、自分には息が続かない気がした。
真理恵は愛の最後の言葉が体の結びつきなのだと考えていた。
宏は真理恵の初めての男であった。
衣服は濡れていた。
海の臭いを感じていた。
「おーい」
かすかに聞こえていた。