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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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黄金の秘峰 下巻

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黄金の秘峰 下巻             南 総太郎 作


第六章    黄金の岩
第七章    約束 
第八章    埋蔵金   
第九章    末裔   
第十章    執念    
第十一章   仏の岩
終章    


第六章  黄金の岩

譲次の和歌の解読の努力は続く。
「まつにちとせのいろはならはて」の「まつにちとせ」即ち、「松
に千年の色、つまり黄金色」とは何を意味するか?
 「松に黄金色」
 「緑色と黄金色」
 「黄金色」
 「山と黄金色」
 譲次が言葉の組み合わせからの連想を繰り返す内に、
脳裏にパッと閃くものがあった。
(そうだ!)
高校の登山部時代、甲斐駒ケ岳に登った時の事である。
朝早く自宅を出て甲府駅から電車に乗った。
車内は前夜遅く新宿から乗った登山客で満員状態だった。
デッキから中を覗くと、通路にまで新聞を敷いて寝ており足の踏
み場もない。
よく見ると網棚をハンモック代わりに寝ている者さえいる。
短時間だから立っていても苦にならない。
二人の仲間と日野春で下車した。
僅か数名しか降りないところを見ると、殆どが松本までの乗客だ
ろうと思われる。
改札口に待っていた若い駅員が如何にも眠そうな表情で切符を受
け取った。
夏とは言え、駅舎の外はまだ暗く、星が瞬いている。
清々しい空気を吸いながら、愈々山登りが始まった。
これから総て徒歩である・
野猿返坂を下って行く内に、僅かながら東の空が白んで来た。
今で言う横手日野春線の道を歩きながら日の出を迎えた。
其の時である。
正面の甲斐駒ケ岳が朝日の中で黄金色に輝いているのを見た。
それは神々しいという表現が相応しく、譲次にとって初めての経
験だった。
白っぽい岩は光を受けて様々な色に変わるのである。
朝日を受けて、赤、薔薇、橙、黄金、黄と移って行く。
此の白っぽい岩とはどんな岩か?
南アルプスの山々ばかりでなく、奥秩父も地質学的に言えば花崗
岩から成っている山塊である。
いい例が、金峰山の麓を流れ落ちる渓谷沿いに散在する数多くの
奇岩、中でも一際目立つ百八十メートルの巨峰「覚円峰」も花崗岩である。国立公園御岳昇仙峡の紅葉と白い岩のコントラストは馴染みの被写体である。
 
「黄金色(に輝く白い花崗岩)」

これで掛け軸に書き込まれた和歌の謎の解明が完了した。
即ち、

「(奥秩父)瑞牆山の近くだが山梨県ではなく、(長野県の)南佐久郡側の端で、這松か松の緑の中で黄金色に輝く(白い花崗岩の)大岩か岩峰なので教えられずとも直ぐ分かる」

と言う事になる。
然し、これとても未だ場所の特定には至っていない。
瑞牆山に代表される様に、この界隈の山はかなり多くの岩が頂上、
山腹の至る所に露出している。
それらをすべて探索する事は大変である。
この岩だと、決定するヒントはないものだろうか?
和歌で見る限り、他に示唆する言葉はないと判断せざるを得ない。
折角、此処まで追い詰めたのに、最後の場所特定が出来ない。
 古来、「朝日射す夕日輝く・・・」のお決まりの枕言葉で始まる
埋蔵金の古謡も、結局その具体的場所が不明のまま探索が行き詰ま
っている例が多いと聞く。 

 譲次は由良爺さんが話して呉れたS町の古い伝説に妙に惹かれる
ものを感じていた。                     
実家が同じS町にあるからだろうか?
 小松家はS町でも最も古い部類に入る家柄であるからだろうか?
そればかりではない。
極く大雑把な話の筋を以前何処かで聞いた事があるような気がし
てならないのだ。
 既視感覚という人間の脳による錯覚というものがあるが、既聴感
覚いうものもあるのだろうか?
 譲次は由良爺さんの話を頭の中で反芻してみた。
繰り返すうちに、ふと譲次は祖母の顔を思い出した。
 何故、祖母の顔だろう。
 幼い頃、祖母に添い寝をして貰った記憶がある。
 沿い寝をして貰いながら耳にした伝説なのだろうか?
(若しかして?) 
若しかして、伝説に出てくる百姓家は小松家なのではなかろう
か?
母親に聞いてみれば、或いは解ける疑問かもしれない。

 譲次は、実家に帰り、由良爺さんの言う百姓家が小松家であるか
どうか、確かめてみようと考えた。
譲次は胸が高鳴っているのを感じた。
血圧もかなり上がっている。

「ただいま!」
実家に飛んで帰ると、ガラス戸を開けて広い土間に入り、母親の
澄子の姿を捜した。
座敷や台所には姿が見えない。
「お袋!」
何回か大きな声を出した。
「はーい、今行く」
裏手の畑の方で声がする。
大根でも掘りに行っているのだろう。
案の定、母の澄子が泥だらけの大根を数本ぶら下げて裏口から入
って来た。
 最近、とみに太って来た様に思う。
「お袋、又太ったね」
「そうかね?」
「年取って太るのは良くないよ」
「分かっているんだけど、つい食べすぎてね。一人だと作り過ぎ
て」                    
「そう。ところでうちは古いんだろ?」
「古い?見た通りの古家だよ。何故かね?」
「いや、このS町でも古い方だろ?」
「そうだね、仏壇見ても分かるだろ。位牌だらけだがね」
「ああ、そうか。仏壇はグッド・アイディアだ」
「仏壇見るんなら、ついでに、父ちゃんに線香上げといて!」
「オーケー!」
譲次は線香を上げると、早速仏壇を覗き込んだ。
薄暗い仏壇の中は一種独特の匂いがする。
かなり広い何段かの棚に数多くの位牌がびっしり並んでいる。
(これじゃ、あちらの世界もさぞかし人口密度が高いだろ!)
大方は煤で汚れて、字も殆ど読み取れない。
後ろの方の数枚を引っ張り出すと、台所に持って行って流し台の
中で洗い始めた。
二枚目の位牌の裏を洗っている内に、
「元多田家家臣」
の文字が現れた。
(えっ、多田と言ったら多田酒造の多田と同じではないか?)
それにしても、小松家が元多田家の家臣を匿った百姓家だという
事がハッキリした。
小松の姓は、明治になってから適当につけたものだろう。或いは
小松という姓は、その多田家家臣の姓だったかも知れない。
それにしても、自分の先祖が信玄の軍資金の埋蔵に関わり、逃げ
出した足軽だったとは!
それに、その足軽と明治時代の百姓と都合二人も黄金に目が眩ん
で行方不明になった家系とは、余り喜べた先祖ではないと思う。
自分がこうして埋蔵金に夢中になっているのも、そうした先祖達
の血を引いているせいかも知れない。
手にした位牌を眺めていると、行方不明になった足軽の怨念がこ
もっている様に思えて来る。
なんだか薄気味悪くなり、急いで仏壇に納めると譲次は手を合わ
せた。
あの多田家の惣吉、健一郎の二人は埋蔵金がらみで死んだ。
自分の家系が矢張り埋蔵金がらみで二人の死者を出しており、今
又、自分も同じ道に入り込みつつあることを考えると、小松家と
多田家との間には何か特別な因縁めいたものがある様に思えて来る。
譲次は急に多田家の人々に妙な親近感を覚え始めるのだった。
座敷に戻って来た譲次に、
「何か判ったかね?」
 母の澄子に聞かれて、
「ウチの先祖は足軽だったんだね」
「足軽。足軽って何だね?」
「一番低い位の侍だね」
「ふーん」
作品名:黄金の秘峰 下巻 作家名:南 総太郎