終わらない僕ら
「要は・・・オレのどこがいいの・・・?」
不安がぽろりと声になって零れた。
「どこって、どこもかしこも。ユキは自分の魅力に気付いてないだけ。ま、自覚して妙な自信付けちゃうような奴だったら好きにはならなかっただろうけど。つまりは、そういう鈍いとこがいいのかも・・・」
「それって褒めてないよね?」
「それは冗談だけどさ、俺のありのままを受けとめてくれたのは、ユキが初めてだったから。ユキが何より大事だし、特別なの」
「ふーん・・・」
窓ガラスに、うっすらと僕たちの姿が写っている。要に抱きすくめられた、自分の姿。な、なんか恥ずかしい・・・。
「まだ信用できない?」
ガラスに写った要が、僕を見つめてくる。
「どうしたら信じてもらえる?」
「うぅ・・・信じたいけど・・・不安しかない・・・」
要を信じていないわけではない。だけど、自分に自信が持てなくて、結果不安が泉のように湧き上がって来てしまう。好きだからこそ、弱気になる。
「俺としては、不安になるってことは、俺を好きでいてくれてるってことだから嬉しかったりもするけど・・・それじゃあユキが辛いでしょ?」
俯く僕を横から覗き込んできた要に、僕は渾身の勇気を振り絞って打ち明けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・たまにでいいから、こうやってギュッって・・・して欲しい・・・・・・」
恐る恐る振り向いて要を見上げたら、彼は驚きと困惑の入り混じったような顔で僕を凝視していた。心なしか抱き締める腕により力がこもったような・・・。
「かな、め・・・?」
「・・・俺の方が不安。いつまで我慢できるかな・・・」
独り言なのか、ほとんど聞こえなかった。「我慢?」と聞き返すと、「いや何でもない」とだけ返って来た。
「・・・了解。別に俺は毎日でもいいけど、たまにでいいの?」
「し、心臓に悪いからたまにでいいっ!」
「あら残念」
激しく首を振って『たまに』を強調する僕に、要がクスクス笑っている。こいつ、絶対に面白がってる!!
「んじゃ帰ろうか」
拘束していた腕をほどき、要がさらりと言った。
「え、でもまだ結構降ってるよ?」
「大丈夫、俺傘あるから」
「え? さっきないって言ったじゃん!」
「ユキと二人きりになれるかなと思ったらとっさに嘘が出た」
「なんだよ! それっ!!」
悪びれた様子もなく嘘宣言をした要を睨み付けたら、真顔で睨み返された。いや、睨んではいないのだろうけど、要の瞳は時折魔力を宿したかのように僕の動きを封じてしまうのだ。
「・・・好きだよ、ユキ」
おもむろに要の両手が僕の頬を包み込んだ。視線を逸らせない。僕はまばたきも忘れて彼の吸い込まれそうな瞳を見つめた。
ゆっくりと顔が近付いて、要と僕の唇が触れる。2度目のキスだった。1度目は不意打ちであまりに一瞬の出来事だったけれど、今度のキスはとろけるような長い長いキス。離れては、また触れる。幾度となく繰り返されるキスに、頭の芯がボーっとなる。全身の力が次第に入らなくなってきて、僕はすがるように要の背中に腕を回した。
「んっ・・・」
要の舌が僕の歯の間を割って入り込んできた。キス自体初めてに近い僕は、どうしたらいいか分からない。戸惑いが伝わったのか、彼の舌が僕の舌に絡みついて優しく愛撫し始めた。自分とは思えないような甘い声が無意識に漏れ、羞恥心でどうにかなりそうだ。
胸の鼓動がけたたましく響いている。破裂しそうだ。これ以上キスを続けたら、なんだか僕はとんでもないことを要に口走ってしまいそうで、背中にしがみ付いていた手で、限界とばかりに彼のシャツをツンツンと引っ張る。
すると、ようやく唇が離れた。口元をシャツの袖で拭いながら、僕は肩で何度も大きく息をした。
「要のバカ・・・ドキドキし過ぎて心臓止まっちゃったら、お前のせいだからな・・・」
自分でも良く分からない台詞が口から出てしまった。要が思わず吹き出している。
「安心しろ。その時は俺が人工呼吸で蘇生してやるから」
じ、人工呼吸・・・想像したらみるみる顔が火照ってきてしまった。そんな僕を置いて、要は鞄を掴み、さっさと教室を出て行く。
「だから〜そういう事言うのやめろぉ〜っ!」
自分の鞄を掴み、僕は叫びながら要の後を追って駆け出した。
僕らの恋はまだ始まったばかりだ。親友同士で、男同士の恋愛なんて、きっと楽しい事ばかりじゃないだろう。むしろ、中傷や好奇の目に晒され、僕らの意志とは裏腹に、二人の関係が揺らいでしまうことだってあるかもしれない。
でも―――。
『オレたちに別れなんかない』
未来が今の積み重ねなら、この気持ちを持ち続けている限り、必ず乗り越えられる。そんな気がした。もちろん何の根拠もないけれど、根拠がなってことは、ポジティブに言い換えれば、可能性は無限ってことだ。
だから大丈夫。きっと大丈夫。
僕らの恋は終わらない! 終われない!
― END ―
不安がぽろりと声になって零れた。
「どこって、どこもかしこも。ユキは自分の魅力に気付いてないだけ。ま、自覚して妙な自信付けちゃうような奴だったら好きにはならなかっただろうけど。つまりは、そういう鈍いとこがいいのかも・・・」
「それって褒めてないよね?」
「それは冗談だけどさ、俺のありのままを受けとめてくれたのは、ユキが初めてだったから。ユキが何より大事だし、特別なの」
「ふーん・・・」
窓ガラスに、うっすらと僕たちの姿が写っている。要に抱きすくめられた、自分の姿。な、なんか恥ずかしい・・・。
「まだ信用できない?」
ガラスに写った要が、僕を見つめてくる。
「どうしたら信じてもらえる?」
「うぅ・・・信じたいけど・・・不安しかない・・・」
要を信じていないわけではない。だけど、自分に自信が持てなくて、結果不安が泉のように湧き上がって来てしまう。好きだからこそ、弱気になる。
「俺としては、不安になるってことは、俺を好きでいてくれてるってことだから嬉しかったりもするけど・・・それじゃあユキが辛いでしょ?」
俯く僕を横から覗き込んできた要に、僕は渾身の勇気を振り絞って打ち明けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・たまにでいいから、こうやってギュッって・・・して欲しい・・・・・・」
恐る恐る振り向いて要を見上げたら、彼は驚きと困惑の入り混じったような顔で僕を凝視していた。心なしか抱き締める腕により力がこもったような・・・。
「かな、め・・・?」
「・・・俺の方が不安。いつまで我慢できるかな・・・」
独り言なのか、ほとんど聞こえなかった。「我慢?」と聞き返すと、「いや何でもない」とだけ返って来た。
「・・・了解。別に俺は毎日でもいいけど、たまにでいいの?」
「し、心臓に悪いからたまにでいいっ!」
「あら残念」
激しく首を振って『たまに』を強調する僕に、要がクスクス笑っている。こいつ、絶対に面白がってる!!
「んじゃ帰ろうか」
拘束していた腕をほどき、要がさらりと言った。
「え、でもまだ結構降ってるよ?」
「大丈夫、俺傘あるから」
「え? さっきないって言ったじゃん!」
「ユキと二人きりになれるかなと思ったらとっさに嘘が出た」
「なんだよ! それっ!!」
悪びれた様子もなく嘘宣言をした要を睨み付けたら、真顔で睨み返された。いや、睨んではいないのだろうけど、要の瞳は時折魔力を宿したかのように僕の動きを封じてしまうのだ。
「・・・好きだよ、ユキ」
おもむろに要の両手が僕の頬を包み込んだ。視線を逸らせない。僕はまばたきも忘れて彼の吸い込まれそうな瞳を見つめた。
ゆっくりと顔が近付いて、要と僕の唇が触れる。2度目のキスだった。1度目は不意打ちであまりに一瞬の出来事だったけれど、今度のキスはとろけるような長い長いキス。離れては、また触れる。幾度となく繰り返されるキスに、頭の芯がボーっとなる。全身の力が次第に入らなくなってきて、僕はすがるように要の背中に腕を回した。
「んっ・・・」
要の舌が僕の歯の間を割って入り込んできた。キス自体初めてに近い僕は、どうしたらいいか分からない。戸惑いが伝わったのか、彼の舌が僕の舌に絡みついて優しく愛撫し始めた。自分とは思えないような甘い声が無意識に漏れ、羞恥心でどうにかなりそうだ。
胸の鼓動がけたたましく響いている。破裂しそうだ。これ以上キスを続けたら、なんだか僕はとんでもないことを要に口走ってしまいそうで、背中にしがみ付いていた手で、限界とばかりに彼のシャツをツンツンと引っ張る。
すると、ようやく唇が離れた。口元をシャツの袖で拭いながら、僕は肩で何度も大きく息をした。
「要のバカ・・・ドキドキし過ぎて心臓止まっちゃったら、お前のせいだからな・・・」
自分でも良く分からない台詞が口から出てしまった。要が思わず吹き出している。
「安心しろ。その時は俺が人工呼吸で蘇生してやるから」
じ、人工呼吸・・・想像したらみるみる顔が火照ってきてしまった。そんな僕を置いて、要は鞄を掴み、さっさと教室を出て行く。
「だから〜そういう事言うのやめろぉ〜っ!」
自分の鞄を掴み、僕は叫びながら要の後を追って駆け出した。
僕らの恋はまだ始まったばかりだ。親友同士で、男同士の恋愛なんて、きっと楽しい事ばかりじゃないだろう。むしろ、中傷や好奇の目に晒され、僕らの意志とは裏腹に、二人の関係が揺らいでしまうことだってあるかもしれない。
でも―――。
『オレたちに別れなんかない』
未来が今の積み重ねなら、この気持ちを持ち続けている限り、必ず乗り越えられる。そんな気がした。もちろん何の根拠もないけれど、根拠がなってことは、ポジティブに言い換えれば、可能性は無限ってことだ。
だから大丈夫。きっと大丈夫。
僕らの恋は終わらない! 終われない!
― END ―