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座敷童子の静雄君 3(続いてます)

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座敷童子の静雄君 afterのafter 後編3





帝人が最初に抱いた疑問はコレ。
5つか6つの幼児を、たった一人で暮らさせる家なんて、この現代日本にあるのだろうか?


★☆★☆★


「……あ、冷えると思ったら、……見て見て静雄くん♪……」
カーテンを閉めに行ったら、冬の精霊……、いわゆる初雪がちらちらと舞っていた。

「明日の朝積もったら、雪だるま作りましょうね。それとも一緒に雪合戦します?」

きっと、はしゃいで喜んでくれると思って誘ったのに、子供はちらりと窓の外を見た後、「…寒い、嫌…」と頬杖ついたまま、またパソコンのディスプレイ画面に目を向ける。

ちなみに今、静雄が夢中になって見ているのは、昔のK-1グランプリ。
確か昨年の大晦日に行われたものだ。

ネットサーフィンで、正臣に頼まれた『聖辺ルリのデビュー当事のプロモーションビデオ』を探していた時、横で覗き込んでいた彼が目聡く見つけ、≪……見た…い!! これ、俺……見逃した奴!!≫とせがまれてつけたのだが、正直、ルールが判るのかな? と疑問にも思った。
なのに今、食い入るように見ているし。

(うーん、静雄くんってばもう。子供に格闘技って、情緒教育に悪いと思うんだけど)

小首をこっくり傾げながら、ふとディスプレイの時計を見ると、デジタルの文字がとんでもない時刻を示していた。
(あ、もう夜11時過ぎてる、……大変!! 静雄くんを寝かせなきゃ!?)
カーテンを慌てて閉め、ぱたぱたとコタツに戻ってマウスを動かし、パソコンを切る。

「……うわぁ………、み、見てたのに……俺………」
「はい、続きは明日のお楽しみですよぉ♪」
お気に入り登録をし忘れたが、履歴を辿ればつけてあげられる筈。
「うううう」

半べそをかく静雄をさっさと抱き上げ、ベッドの敷布にぽすっと転がした。
そしてコタツの台をひっぺがし、電源切り立てのほかほかと温かい掛け布団を引っぺがし、ばっさり彼の上に被せてから、更に薄い布団を二枚重ねる。
帝人がもぞもぞとベッドに潜り込むと、慣れたもので静雄もぺとりと彼女の胸にしがみ付いてくれる。

「うふふ、……静雄くんは、ほかほかですね♪……」

子供は体温が高くて温かいから、この子のお陰で今日まで暖房いらずで済んだけれど、流石に今日は三枚重ねても背中が寒い。
明日、毛布を買ってきた方がいいかもしれない。

「……みかろ……、朝、俺、おむれつ……、食う……」
「はい♪ チーズも挟みます?」
「うん。ミルク…も入れ……」
「判りました♪ じゃ、お休みなさい静雄くん♪」
「……おやす……みぃ……」

大人静雄とトムさん用に、お礼の差し入れ肉まんを作ってから今日で丁度一週間。
チビ静雄の家に、夜通し親が居ないのは確実らしく、帝人は、あれから毎晩彼を自宅に招き、夕飯とお風呂とネンネ、それから朝ごはんを共にしていた。

毎日ちゃんと、帝人が登校する前に、勝手に鏡を濡らして元の世界に戻っていくから、きっと昼間は親が帰っていると。
そう信じたいが、この頃、時折疑問が頭をよぎるのだ。

(……静雄くんって、本当に……生きているんだろうか……?)

子供の世界は狭く、5~6才なんてきっと、母親、兄弟、友人、飼っているペットぐらいしか、興味がない筈なのに、彼は違う。
チビ静雄から、実生活の話題なんて、今まで一度も出てこない

大人静雄を見ているから、ちゃんと成長してくれると判っているけれど、もし彼と会っていなかったら……、きっとチビちゃんはとっくに死んでいて、妖怪【座敷童子】になったと、今でも思っていただろう。

(お家の人、どうしたんだろう? 本当に育児放棄されているのかな? それとも虐待?……まさかね、静雄くんは怪力だし負ける訳ないよね。……でもでも、だから家族の人、怖がって逃げちゃったとか……)

帝人はぷるぷると頭を振った。
勝手に変な事を考えて決め付けたら、静雄くんにも静雄さんにも失礼だ。

「おやすみなさい、静雄くん」

小さな肩を冷やさないよう、掛け布団をきちんと被せて目を閉じる。
けれど次々と脳裏に湧き出る疑問には、目を瞑る事はできなかった。


★☆★☆★


翌日学校から帰ると、玄関開いてすぐ目の前に、こんもり大きな荷物が転がっていてびっくりだった。
その包装紙の天辺に、簡潔に走り書きしてある文字を読み、帝人はため息を一つ零した。

≪これ使え。昨晩雪降ったから寒かっただろ≫

ちょっと早いサンタさんの名前は、やっぱり【平和島静雄】だった。
厚地の冬用掛け布団に毛布、それから電気代のかからないお湯を注ぐタイプのレトロな湯たんぽの差し入れは、もの凄くありがたい。
けれど、合鍵使って帝人の留守中、勝手に家に入られるのは。
どんなに彼がいい人だと判っていても、嫌だろ普通。

(……う~ん、困った大家さんだなぁ……。あ、まさか!!)

眉間に皺を寄せ、ぽてぽてとキッチンに行き、備え付けの冷蔵庫をパカリと開けると、買った覚えのない新鮮食材が、肉も野菜も魚もごっちゃになって、隙間無くパンパンに詰め込まれていた。

いくら【静雄さん】が成長した静雄くんだって、これでも帝人はお年頃の娘。
大人の異性に、乙女の冷蔵庫の中身を勝手に見られるのは、タンスの引き出しに入っている下着を漁られるのと同じぐらい生理的に嫌だった。

(でも、静雄さんも善意でしてくれているんだよねぇ。食材の差し入れも実際助かってるし、いくらお婆ちゃんと約束したからって、あの人にとっては16か7年前の事なのに)

物凄く真面目で義理堅い。
それに帝人の命の恩人でもある。
(やっぱり静雄さんに文句なんて言えないよね。言ったら駄目、バチが当たっちゃう)

お礼を告げたくても、帝人は今でも静雄の携帯番号どころかメルアドも知らない。
大人な静雄さんとは年が離れすぎているせいなのか、何故か会話が噛み合わず、いつも聞く機会を逃してしまうのだ。

(明日、事務所に直接お菓子を差し入れに行こう。何がいいかな? アップルパイ? それとも手軽に食べられるチョコクッキーかレモンメレンゲ………)

物思いに耽っていたら、突然、鍵を掛けていた筈の玄関が勝手に開いた音がした。
くるりと振り返ると、バーテン姿の静雄サンタが、小脇に折り畳まれたカーペットを抱えて、靴を脱ごうとしているし。

「……あ……、こんにちは静雄さん♪……」
「……よ、よぉ……」

直ぐにぷいっとそっぽを向き、視線を逸らしながら、バーテン男はずかずかと歩み寄って来ると、ずいっと手に持っていた荷物を差し出した。

「……これ、三畳分のホットカーペット。電気代あんまりかかんねぇって……。こたつの下に敷いとけ、暖かいぞ……」
「……あ、ありがとうございます……」

一応ぺこりと頭を一つ下げる。
値札がまだついていたので目を走らせると、値段は4980円。
昔ならいざ知らず、今の帝人の一週間分の食費だ。

「ですが、もうお布団と毛布と湯たんぽまで頂いちゃってるし。更にそんな高価な物はちょっと、受け取る訳には……、あ、そうだ、……せめてカーペット分、お金を払いますね!!」
「俺がくれてやりたかったんだ。勝手にした事だから、気にすんじゃねぇ」