非色──いろにあらず──
悲色(ひいろ)──雪の日の幻想──
part1
――晴れ ときどき 曇り
夕べの予報
NHKでもはずれる天気
遠くの音がはっきり聞こえる日は
天気が悪くなるという
きまぐれはニンゲンだけではないんだね
目が覚めたら雪が降っていた
窓のそと
聞こえるはずのない列車の音が響く
Ahhhhhhhhhhh……
また ふとんにもぐりこもうか
たいくつだよ
だれか電話で話そうよ
part2
とざされたくちびるは
何をも語ろうとしない
かたくとじた貝殻のように
おまえは なぜ そんなにも
過去にしがみついているのだ
じっと 岩の間にいる
やぶにらみで 神経質な蟹のように
いったいだれがおまえを呼ぶというのだ
part3
見えないものを追うんじゃないよ
追ってどうなる
しまいには身を滅ぼすだけだよ
風をさがすのは およし
むだなことだよ
手応えのないものは
いつになっても つかまらないよ
夢にも形があるのは 知っているけど
part4
ゆきぐにでは いろりをかこんで
むかし むかしの おはなしを するのでしょうか
まっしろに うずめられた さとの
たのしみは
とうさんからの たよりでしょうか
ちいさなむらの わらべうたは
もう
きこえませんか……?
part6
否
おまえは時の歪みの中に
取り残されているのだ
ちぎれた耳は いったい
何を きいたのだろう
砂の上を 足跡が歩いていく音
ああ
心臓がこわれそうだ
うつろな目は 何を見たというのだ
大粒の涙を流して
しかし 決して悲しくはないのだ
わからない
流れ星が海に落ちて
金色のひとでになったなんていう話は
むかし話にさえ ありはしない
そんなことを信じる少女趣味はよせ
優しさも美しさも
この世の嘘の前では すべて
色褪せてしまうのだから
part7
わたしは狂っているのではない
狂っているのは世界だ
闇の中から ひそやかな
悪魔のささやきさえ 聞こえてきそうだ
草な陰で待ちかまえている毒蛇は
おまえの足下に跪くだろうか
それとも
おまえののど笛をかみ切るだろうか
おまえは
ゆうべの子守歌も
ものがたりも
みんな忘れてしまって
草の上をかけまわってごらん
ああ 美しいよ
きっと 死ぬだろうから
少し 笑ってごらん
花びらがこぼれるように
はかないものはみんな美しいさ
しあわせだろう おまえは
笑って死ねるなんて
part8
――県南部に降り続いている雪は
今夜半にはやむでしょう
手紙でも書こうか 遠くの人に
今年の冬は いかがお過ごしですか?
こちらは 珍しく雪が降っています
作品名:非色──いろにあらず── 作家名:せき あゆみ