老い楽(らく)の恋
西村由香は夫、徹の様子というか行動に疑いを持つようになった。
確証がある訳ではない・・・ただ
長年夫婦してると距離感というか何か見えない壁があるような
感じがする。それは女の妻のカンというものかも知れない。
今夜も夫の帰りが遅い
今日は二人で話したいと思っている。
夫の帰りは午前1時を過ぎた頃だった。
由香はわざと明るく
「お帰りなさい、疲れたでしょう。ご苦労様」と声をかけた。
徹は少し驚いた様子で
「なんだ・・・まだ起きてたのか?先に寝ててもよかったのに」
「うん、ちょっと話しがあったので待ってた」
「何の話だか知らんが今日は疲れてるんだ。明日にしてくれ」
由香は鎌をかけてみた。
「今日ね、また無言電話がかかって来たの」
「また、その話か」と嫌な顔した。
「今日はね、無言電話じゃなかったのよ(おなたが奥さんなんだ)と
言って一方的に切ったのよ。あなた可笑しいと思わない?」
内心ドキッとした。
《あの時、佳代子に無言電話したか聞くの忘れてしまった。
また彼女がかけたのか・・・》
「変だと思うが俺には関係ないことだ」
「あなたに関係あるなんて言ってないわ」
「その言いかたはそう聞こえるよ。
もしかして息子の彼女かもしれないぞ」
冗談めかしに言って笑った。
「まさか、そんな若い声じゃなかったわ。それにあなたが奥さんねと
言ったのよ。息子の彼女ならそんなこと言うはずないし一方的に
電話を切ることもないでしょう」
徹はぐぅの音も出なかった。
「どうせ悪戯電話に決まってる」
由香は勝ち誇ったように「それなら携帯みせて!
何もやましいことがないなら見せられるはずよ」
徹は焦りながら「い、いくら夫婦でも通信秘匿の権利はあるんだ。
だから今までお互いの携帯なんて見せ合うこともしなかったろ」
「それはあなたを信じてしたからよ」
「それじゃ何か、俺が浮気でもしてると言うのか」
「あなたが頑なに携帯を見せるのを拒むからよ。
絶対、怪しいわよ。何か変」
徹は何とかここを切り抜けて明日の朝にでもメールを削除した
携帯を見せれば妻を納得させることが出来ると考え
「今日はもう眠い」と言ってさっさと寝室に逃げてしまった。