HELL DROP
色は黒で大型ワゴン。
足場の悪い道をガコンガコンと走る。
中に乗っているのは黒服の男二人ともう一人性別のわからない一人。
「今更だけどよ、俺たちって随分凄いことしてると思わないか『ヴァリス』」
男のうちの一人、助手席に乗っている帽子を眼深に被った針金のような体躯の男が口を開く。
口調は心底楽しそうで、この夜の暗さを吹き飛ばすようだった。
その手では血の付着したナイフをクルクルと回していた。
それにもう一人の男が言葉を返す。
「『ケット』、無駄話をしていると『クッカ』様に怒られるぞ」
ワゴンを運転している眼鏡を掛けた細身のヴァリスと呼ばれた男は口を開く。
細身だが決して弱そうでなく、着ているスーツの下は鍛えられているようだった。
その上袖口からはわずかに光を反射する刃も見えている。
二人が喋るワゴンの一番後ろでは何かがぶつかり合っているような音が響いている。
それは、物ではなく人だ。
死んでいるわけでなく薬品によって眠らされている人間。
それを誘拐してある建物にまで運ぶのがこの二人の仕事だ。
「まあいいでしょクッカ様、このぐらい会話しても?」
呼ばれたクッカと呼ばれている人間は口を開かず無言でこくんと首を縦に振った。
それをみたケットはまた楽しそうに会話を続ける。
「ほらほら。だってさ俺たちって今『人を誘拐して建物に閉じ込めて殺し合いをさせよう』としてるんだぜ?」
そう言いながら後ろにいる七人の人間をナイフで指した。
愉快な口調で喋るケットをウザそうに対応するクッカとヴァリス。
しかしケットは話すのをやめない。
「だって俺たちが『個人』にこんなに働かされたのってクッカ様が初めてだぜ? いや正確には『買われたのは』が正しいか」
クッカは自身の金で普通は雇うだけの何でも屋のヴァリスとケットを買収したのだ。
これで二人は一生クッカの奴隷なわけだが、それを大して気にしていない。
どこまで言っても所詮は三人は仲間と言うわけではなく、ただの仕事仲間なのだ。
金で動き、命令の通りに使命を実行する。
それだけを生きがいにするヴァリスとケット。
それを利用するクッカ。
こう言う風に三人の関係は金で成り立っているのだ。
「これで俺たちは悲しき奴隷に成り下がってしまったのか! ああ、なんて悲しいことだろうか!」
冗談っぽい口調でケットは喚く。
横の風景を眺めてもずっと木ばかりで、景色が変わる様子はない。
恐らく目的地に着くまでずっと景色はこのままだろう。
いや、着いてもこのままなのかもしれない。
まずこの三人の目指している建物と言うのは廃校になった校舎だった。
そこで七人を降ろしたらとりあえず仕事に一段落が着く。
だが休みと言うわけでなく、数時間でまた仕事を続けなければならない。
恐らく二人に休みが訪れることはないのだろう。
自身かクッカが死ぬそのときまで。
ケットの言葉に何かを思ったのかクッカは突然口を開いた。
「奴隷とは人聞きが悪いじゃない。僕は君たちを善意で雇っているんだよ?」
「買収を雇うって言わないっての」
クッカの声は口に何かをつけているようで性別は判断できない。
マスクを三重につけているようなくぐもった声。
だが喋り方はどこか女性のように思える。
しかし真実はわからない。
ケットの反論を意に介さずクッカは言葉を続ける。
「今回は僕の復讐の為のゲームをするんだ。君たちはそのために雇ったキャストってわけ」
自分の計画を自慢げに語るクッカ。
それはまるでマラソンで一位を取ったことを父親に話す子供のようでもあった。
だがその計画したゲームの内容は殺人ゲーム。
「俺たちをキャストとして使うなんて信じられないよ」
そんな会話をしているうちに目的の建物へと辿り着く。
既に廃校になって数十年のはずなのだが、今でも利用されていると勘違いするほどにその校舎は綺麗だった。
クッカと呼ばれている人物があらかじめ修繕していたのだろう。
ワゴンを止め、後ろのトランクを開く。
そこには無残に寝ている『六人』が居てだらしなく男女が絡まって寝ていた。
薬で寝かされているため数時間は起きないだろう。
「じゃあこの六人を指定していた部屋に寝かせておいてくれ。それが終わったらまたここに来ること」
クッカの声に従い二人は三人ずつ人間を運び校舎の中へと入っていった。
校舎の中へ二人が入ったのを確認してクッカは一息つく。
そして天を仰ぎながら言葉を口にした。
「さて、あと数時間で始まるんだ! 僕の復讐劇が! ああ、楽しみだな楽しみだなあ!」
心底楽しそうな口調で叫ぶクッカ。
そうこれから行われるのはクッカの復讐劇。
これに巻き込まれた七人+二人の運命はどうなるのか?
この時点では誰も知らない。
そしてゲームが幕を開ける。