この雨が止む頃に
交わす言葉はそれだけだった。
砕けた意識を元に戻す。
月から斜めに射し込む光が笑っているような気がした。
泣かないように呼吸するのが難しい。
拓也はそっと微笑んでみた。
知之の、全てを清算したような微笑みを、できるだけ真似てみた。
「似てないよ」
「何も言ってねえし」
「でも似てない」
「あ、そ……」
似ていないのだろう。
それは確かに美雪の言う通り、似ても似つかない微笑みなのだろう。
見慣れた家が視界に入る。
美雪は渦巻き模様の浮かんだ瞳で拓也を見上げた。
拓也は苦笑いして美雪を見つめた。
言うべき言葉も今はない。
ただ、ほんの少しでもいいから──眠りたかった。
「美雪──ごきげんよう、おやすみなさい。また明日」
「拓さん、ごきげんよう、おやすみなさい。また明日」
■ □ ■ □ ■
【了】