小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

この雨が止む頃に

INDEX|12ページ/12ページ|

前のページ
 

 交わす言葉はそれだけだった。
 砕けた意識を元に戻す。
 月から斜めに射し込む光が笑っているような気がした。
 泣かないように呼吸するのが難しい。
 拓也はそっと微笑んでみた。
 知之の、全てを清算したような微笑みを、できるだけ真似てみた。
「似てないよ」
「何も言ってねえし」
「でも似てない」
「あ、そ……」
 似ていないのだろう。
 それは確かに美雪の言う通り、似ても似つかない微笑みなのだろう。
 見慣れた家が視界に入る。
 美雪は渦巻き模様の浮かんだ瞳で拓也を見上げた。
 拓也は苦笑いして美雪を見つめた。
 言うべき言葉も今はない。
 ただ、ほんの少しでもいいから──眠りたかった。

「美雪──ごきげんよう、おやすみなさい。また明日」
「拓さん、ごきげんよう、おやすみなさい。また明日」

■ □ ■ □ ■

【了】
作品名:この雨が止む頃に 作家名:名寄椋司