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表と裏の狭間には 十八話―家族旅行―

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まぁ、礼慈がこうして眠っているのも、わっちがこうしてそばに控えているからなのだろうけど。
本当は分かってるんだよね。
わっちも分かってる。
わっちが本当に礼慈を襲うなんてこと、出来るわけがないんだ。
それで嫌われたりしたら………。
想像するだけでも、耐えられない。
「……………。」
はぁ………。
でも、退屈だなぁ。

結局、礼慈が起きたのは正午頃だった。
朝食を食べた後すぐ寝付いて、そのままお昼まで寝通しである。
そして、寝起きとは思えないほどテキパキと昼食を平らげる。
こいつの体ってどうなってんだ?
そして、昼食を終えたわっちと礼慈はというと………。
「なんだって散歩なんか。」
「……無理に付き合えと頼んだ覚えは無い。嫌なら帰ればいいだろ。」
ちょっとした森林浴に出ていた。
ま、いいか。
綺麗だしね。
東京と違って空気が美味しい。
それに、普段の殺伐とした空気はどこかに吹っ飛び、のどかな空気が胸を満たす。
「……落ち着くな。」
「そうだねー。」
のどかだ。
田舎はいいなぁ。
山道を、二人並んでゆっくり歩く。
年に一度か二度しかないよね、こんな時間。
大抵は家でごろごろしてるか、学校で騒いでるか、抗争に身をやつしているかだからね。
わっち、意外と勝ち組?
まぁ、礼慈がわっちのことをどう思っているかなんて、わっちには分からないんだけどね。
でも。
わっちはこうして二人で歩けるだけで、幸せだな。
肩を並べて、紅い山を歩く。
これで、いい。
今は、これで。
わっちは満足だ。
「礼慈、君はどうだい?」
「……満足してなきゃ寝てるよ。」
「そうかい。」
そりゃ良かった。

二日目―ゆりSIDE―

「あれ、風邪ひくんじゃないかしら?」
「下手したらひくだろうな。」
煌と二人、宿の窓から川を見下ろして呟く。
朝食を食べた後、軽く周囲を散策したあとは、宿の中をぶらぶらしている。
そして、ふと窓から下を見下ろすと、川で遊んでいるバカ三人の姿が。
もうこの辺は寒くなってきているのに、そして水も冷たくなってきているのに。
あんなところで遊んでたら、速攻で風邪決定よ。
風邪薬でも準備しておこうかしらねぇ?
「お前はちょっと心配性なくらいだよな。」
「そうかしら?」
「オレから見たらな。」
「にしても、川………ねぇ。」
「何かやるつもりか?」
「今考えるわ。」
「今決定下すのかよ………。」
そうね………。
紅葉狩り……というのは、ちょっとねぇ。
どうせなら……川……川ねぇ……。
川といえばやっぱり……、釣り?
「ちょっと聞いてくるわ。」
「釣り……か。まぁいいんじゃないか?」
ちょ、あたしまだ何も言ってない……!

旅館の人に聞くと、この宿は釣り客も結構多いらしく、道具などを貸してくれるということだった。
十人分も貸してくれるなんて……。どんだけ暇なのよ。
他には七輪やらなにやら、釣った魚を料理するための道具も借りて……。
「ってオイ、釣れること前提かよ。」
「だからあたし何も言ってないわよ!?」
「大体分かる。」
「………そう。」
何なのよこいつ。
何でここまであたしのこと見透かしたように。
……気にくわないわね。
とにかく、明日は釣りね。
部屋に戻って、メモ帳に書き込む。
……輝と耀がゲームやってるわね。
あたしが入っても全然気付かないとか、どんだけ熱中してんのよ。
その後は煌とあちこち歩いて過ごした。

夜中、あたしと煌は荷物用に確保した小部屋にいた。
別に変なことを考えてるわけじゃないわよ!?
「………やっぱり?」
「ああ。……情報部から連絡が来た。霧崎は既に出所している。」
「桜沢一派が手を回したのね……。しかし、予想以上に削ってきたわね……。」
「ああ。年度末には動き出すぞ……、『神議会』が。」
「日本全国の暴力団・マフィアの連合会、ね。よくもまあ、こんな構想実現しようと思えるわね。そしてよくもまあ実現できるわね。それだけは褒めてやってもいいわ、霧崎平志。」
「それに、桜沢一派のほうも動き出すぞ。……『ノヴァ』そして、クーデター。」
「ノヴァ、ね。独立しようとしてくるとは思わなかったわね。ということは、大規模な内乱になるかしら?」
「上が素直に承認するとは思えんからな。」
「内乱で打撃を与えて、隙を与えず神議会が攻勢をかけて潰す腹ね。あの親子、本当に鬱陶しいわね……。」
「アークの半数もの勢力と、日本全国に蔓延る暴力団とマフィアの力があれば、クーデターも容易だろうな。」
「……させないわよ。」
あたしは、あたしの家族を守る。
例え桜沢美雪にどんな目的や事情があろうとも、それがどんな崇高なものであろうとも、あたしの家族が被害を被る以上、それは看過出来ない。
どんな手を使ってでも、潰す。
「やるのか?」
「ええ。やるわ。」
「そうか……。」
「………………。」
「今のところ工作はほとんど完了している。あちらの情報も少しずつ入るようになってきた。動きがあればすぐに分かるだろう。」
「あたしのほうも、そろそろカードを整備しないといけないわね………。」
「カードって、どういうことだ?」
「はっきり言って、あたしはアークという組織そのものはどうでもいいのよ。だから、あたしの個人的な人脈を使って、いざというときの最後の切り札を作る。」
「お前の人脈っていうと、警視総監に公安零課長、内閣国防相に総理補佐官、陸自長官……だったか?」
「主立ったところはそんな感じね。」
「その人脈で、最後の切り札……まさか!お前!?」
「ええ。最悪の場合は、何もかもを破壊して、全てを無に帰すわ。」
「…………。」
「勿論、皆には手が回らないように調整するわ。」
「お前は?」
「あたし?」
「もしもお前が犠牲になるような計画なら、オレはお前を絶対に許さんぞ。全員が無事に全てを乗り越える。これ以外の選択肢を選ぼうものなら、オレは、お前を拘束してでも止めるぞ。」
「………………。」
バレバレ、か。
だから、こいつはさぁ……。
あたしのこと、見透かしたような……。
「分かってるわよ。あたしもまだまだ人生棒に振りたくはないからね。」
「ならいいが………。」
煌は、まだ訝しげにあたしを見ている。
「まぁ、いい。じゃあ、もう寝るか。」
「そうね。」
時が近づいてくる。
決戦の時が。
あたしのカードを切るにしろ、切らないにしろ、どの道アークは崩壊するだろう。
だから、あたしの戦いは二つだ。
一つは、霧崎平志と桜沢美雪を殺し、連中のクーデター計画を阻止すること。
まぁ、後半はほとんど後付で、本当は霧崎平志を殺したいだけだ。
もう一つは、皆を守ること。
どのようなエンディングを迎えるにしろ、最悪でも皆は守る。
さあ、帰ったら準備を始めなきゃね。
まあ、今夜はもう寝るとしよう。
明日は、久しぶりの釣りだわ。

続く