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マリッジセレモニー

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 娘の隣を歩く男の元へ、もうすぐたどり着く。
 父親として避けられない瞬間がやってくる。
 じわりと目尻が熱くなるのを感じて、慌てて腹に力を入れなおした。

 私は十七歩目で立ち止まった。

 新郎と視線が交錯し、その緊張が伝わってきた。
 娘をよろしく。私は微笑んだ。
 新郎は何か吹っ切れたようにキリッと引き締まった。

 娘が一歩前へと進んだ。
 ここから先は娘の道。私の道ではない。
 胸の奥からこみ上げてくる感情はもう抑えられそうにないが、娘の晴れ姿を一秒でも長くこの両眼に焼き付けておきたかった。
 私は新郎新婦から目を逸らさずに、用意された席に着いた。


「誓います」
「……はい、誓います」

 式は滞りなく終わり、娘がブーケを投げたら、名実ともに式は終わりを告げる。
 たくさんの人々が娘の結婚を祝福してくれている。
 親として嬉しくないはずがない。
 もし許されるのならば、ここにいる全員と握手して『ありがとう』と言ってまわりたい。


 私はいつのまにか妻の手を握っていた。
 私にも愛する相手がいる。娘にも愛する人と、愛してくれる人と一緒に幸せを築いて欲しい。
 物理的な、肉体的な距離ではなく、心が傍にあること。傍に感じること。

 大切なものだからこそ、一番近くにいて欲しい相手だからこそ、素直に伝えることを忘れてはならない。
 それでも今となっては照れくさいが、何年振りかに言ってみよう。


「お前を愛しているよ」


 娘の放ったブーケが、一点の曇りもない青空に煌めいた。


               ― 了 ―
作品名:マリッジセレモニー 作家名:村崎右近