クロス 第五章 ~BLACK NIGHT~
軍人になるというコトは、その身も心も全て帝国に捧げるというコトだ。ひいては神に仕えるというコトになる。たとえそれが元軍人であろうと、その心構えは変えるべきではない。
誤解のないように先に言っておくが、これは驕りではない。軍人とは神の眷属で、代行者なのだ。だからその行いには必ず印(しるし)がある。それが神の御業と分かるように。
クロスとは十字架。つまりはそういうコトだ。
もう一つ挙げるとすれば、この早撃ちだ。軍人時代、誰もこれに対抗できる者はいなかった。これに関して、欲しい物は全て手にした。そうしたら途端に虚しくなった。それこそが存在意義だったというのにだ。いわゆる好敵手というのには出会えなかったというコトが、測る物差しを失わせ、目標すらも見失わせた。だから軍を飛び出したのだ。外にはまだまだ凄い奴がいると思ったから。
早いかどうかを知る最も簡単な方法として、決闘を選んだ。それで負けて死ぬコトは惜しくもない。むしろ本望だ。何せ存在意義なのだから。出会えたコトに感謝しなければならない。身の程を知るというコトは素晴らしいコトなのだから。
だがしかし今のところそんな奴はおらず、全勝だ。どいつもこいつも大したコトがない。哀しい現実というべきかね。
ただ単に銃を持っているだけ、などという戯言があっていいのだろうか。そこには意味があるはずだ。そのために努力し、向上心を持つのではないのか。
それはさておき、だからこそそいつ等をクロスにするのだ。いわゆる敗者に憐みをってやつだ。
そういうわけで休養はもう十分だ。今宵もオレは十字を切る。
作品名:クロス 第五章 ~BLACK NIGHT~ 作家名:飛鳥川 葵