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みっふー♪
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おじちゃんと子供たちのための不条理バイエル

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LESSON5



+++

テーブルの上にずらり並んだからあげチキンにミックスフライにポテト盛り合わせに、オール揚げ物三昧のメニューを前に猫背を丸めたグラサンおじさんは既に胸やけ寸前のようだった。
(……。)
――大体ファミレスで壮行会やるなんて、やるならもっとこぢんまりした居酒屋かなんかで、マ夕゛オさんの好きな冷酒にトンブリ……、しっ、知るもんか、自分を置いて飛び立とうとしている薄情な、――いや今回の顛末が祝うべき慶事であるのは少年も頭の隅ではわかっている、ただどーにも気に入らないのはそれがあのチャンチキおさげ兄貴の胡散臭いコネクション絡みらしいということで、マ夕゛オさんもいくら公園追い出されて弱気になってたからってそんな怪しい誘いにホイホイ、……頼る場所ならもっと他にあるはずだろ、堪えようにも湧き上がる腹の虫はいかんともし難く、ダイエットコークをちびちび啜りながら、メガネ少年の目はすっかり据わっている。 「ストロベリーミルクお代わり!」
おじさんと少年の間に陣取ったもう一人若い方のおじさん(天パ)が、空になったコップをダシっと目の前に置いた。
「……」
――この男、通路最寄り位置に強引に自分を押し出しただけじゃ飽き足らず、パワハラ紛いにドリンクバー行きを命じているのだ、もはや抗う気力も虚しく思え、負のオーラに周囲の重力を歪ませてメガネ少年は立ち上がった。
一方、テーブルを挟んだおさげにーちゃん側の席で、今日の主役の片割れでもある白デカわんこは、ほっぺの毛をくるんと撥ねさせたまま、こちらもずーっとおねむの不機嫌顔だった。
「サダちゃん昨日眠れてないアルか?」
背中をナデナデしてやりながら隣の席の少女が訊ねた。
「……」
――ふしゅっ、わんこは鼻を鳴らして頭を振った。
「ソイツとやっと縁切れると思ったら、wktkしすぎて興奮したんだろ、」
嫌味口調に天パが言った。
「そーアルかなァ……」
への字顔のわんこの表情を覗き込んで少女は首を傾けた。
「ほらこれキミの分だよ、」
おさげにーちゃんがにこにこ笑いながらわんこに丸鶏チキンをすすめた。
「……、」
わんこはふいと顔を逸らした。
「そっか、そーだな、まずは書類にサイン済ませてからだな」
にーちゃんは別段気を悪くした風でもなく、懐から件の紙切れを取り出した
「さっワンちゃん、あとはココに君の肉球ポチッてくれるだけだからっ」
にーちゃんが皿を片してテーブルに広げた書類の文面をわんこはじっと凝視した。
「……」
「さぁっ!」
にーちゃんが糸目に満面の笑みを浮かべてわんこを急かす。
「…………」
わんこはふっと息を吐いた。次の瞬間、
――がじ!
わんこは大口開けて、おさげごとにーちゃんを丸飲みした。
「!!」
ちょうどコップを持って戻って来たメガネ少年と、向かいで見ていたおじさんは仰天した。天パはほくそ笑んだ。
「あー……」
予期していたかのように少女が声を漏らした。
「どっ、どーしたんだいワンちゃん?」
――そーか朱肉代わりにしようとしたんだね、どうにかわんこの口から這い出したおさげにーちゃんは、だらだら流血しながらも平静を装った。
「……」
わんこはすんすん、拗ねたように少女の肩に顔を埋めた。しばしわんこと額を突き合わせて、顔を上げた少女が言った。
「サダちゃん、兄貴と別れないって言ってるアル、」
「えぇっ?!」
メガネ少年は両手のコップを握り潰さん勢いで身を乗り出した。天パが慌ててミルクの方のコップを受け取った。
「――、」
向こうから切れてくれると言っているのにこんな相手に未練があるのか、わんこの心積もりが少年には解せなかった。
「……」
おじさんは俯き加減にグラサンを押さえた。
「!」
――なるほど逆にその手があったか、なかなか気が利くイヤガラセじゃねーかオマエ、あとでナベいっぱい牛乳プリンやるからな、コップを掲げて景気よさげに天パが言った。
「ワンちゃん……」
おさげにーちゃんがわんこに手を伸ばした。わんこは身を捩らせて逃れた。しかし気を削がれたにーちゃんがちょっとでもよそ見しようとするなり、――がじ! 容赦なく頭に齧り付くのであった。
「――わかったよダーリン、」
わんこの口から何度目かで吐き出されてにーちゃんが言った。
「……ダーリン、君はもしかして僕と似てるのかもしれないな」
涎と流血まみれにおさげにーちゃんは呟いた、
「君だってその嵐のような執着が実際何に向けられたものなのか、自分でわかっちゃいないだろ?」
――ただなんとなく心が収まらなくて、じっとしていられなくて、暴れたからって余計に元の形をブチ壊してしまうだけかもしれないのに、それでも己の内側で轟々風が巻くのを止められない、鉛色の空に向かって自分が何を叫びたいかも知らないまま、
「他人に戻ろう、って申し出は撤回するよ」
まっすぐわんこを見てにーちゃんが言った。
「わふっ!」
前脚でテーブルを叩いてわんこが吠えた。にーちゃんはわんこの目の前で書類を細切れに引き裂いた。
「――おじさん、」
それから、不意に向かいの席のおじさんに目をやり、
「そういうわけで若干いろいろ端折るけど、俺の船におじさんを幹部待遇って話もいったんチャラね、」
「……んっ? ああ、わかった構わないよ」
おじさんは頷いた。
どうせ端から話半分にしか聞いていなかったのだ、今日の壮行会とやらだって先日自分の持ち込んだシケモクボヤを気にしての、少年なりの詫びのつもりなのだろう、当時おじさんの認識は結果的には誤っていた、……少し冷静になってみれば、彼がいちいちその程度の些事に引け目を感じるようなミニマムスケールの持ち主でないことはすぐにわかりそうなものだが、おじさんの如き宮仕えのエリート齧り出自ではいかんせん小市民的思考から脱却しきれないのであった。
「おじさんがあんまり面白いからうっかりしてたけど」
おさげの肩を軽く竦めるようにして少年が言った。
「よく考えたら、だからこそおじさんとは一緒にいない方がいいんだよ」
「?」
おじさんは髭面を傾けた。少年がくすりと赤毛を揺らした。
「どんな愉快なオモチャでも、手に入れた途端あとは退屈なガラクタに成り果てるばかりだからね」
「……。」
おじさんは黙って聞いていた。――ああ、そんな曇りひとつない笑顔で、そんな寂しいことを言うなよ、でも、だからこそこの子のことをほっとけないと思ってしまうんだろうか、これが天性の問題児ってやつなのか、テレビドラマに出てくるような熱血教師ならいざ知らず、自分のことで手いっぱいのはずの、俺みたいな人生に擦り切れたくたびれおやじでさえ一瞬そういう気分にさせられるんだもんなぁ、
「おーおー、クソガキが何やらご高説述べてますけどぉー、」
「あんなの言ってる本人だって意味なんかわかってないんですよきっとっ」
腕組みにふんぞり返って揶揄する天パとメガネ少年に混ざって少女が言った、
「私知ってるヨ! にーちゃんのアレは中二と高二の間でこじらせた中三〜高一病ってゆーんだよ!」
「どんだけアバウトだよレベルグダグダじゃねーか、」
天パが眉を顰めた。