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おじちゃんと子供たちのための不条理バイエル

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【付録】かぐたんのグダグダ★乙女日記#



×月×日

今日、前々からやくそくしていたしゃぼん玉大会をおじちゃんとふたりでやりました。
ぱっつんも行こーよーって家を出る前に何度もさそったけど、奴さんときたら地味メガネの分際でがっつりヒトを無視していやがりました。
好きなだけフテ腐れていればいーと思うので、こっちもシカトしかえしてやりました。
銀ちゃんは机で広げたけいばしんぶんにむちゅうでした。サダちゃんは部屋の片隅でスピスピおひるねしていました。
……ここんとこ若干皆行動がパターナリズム化している気がするけど、ビバ!様式美!! ってことで良きかな良きかな。
私は台所の棚からぴんくのたてじますとろーを二本とってるんらるんら、ステップの足取りも軽くおじちゃんの公園をめざしました。
「……やぁ」
――いらっしゃい、出入り口付近に待ち構えていたおじちゃんがグラサンの下の髭面を綻ばせました。声は明るかったけど、よれよれ半纏のおじちゃんはいつにも増して疲れているようにも見えました。
「ごめんねおじちゃん」
私は一人で来たことをまずはおじちゃんにわびました。
「……ぱっつん、誘ったんだけどボクは行かないって一点張りで」
あの子たまにちょーごーじょーで扱い辛いんスよー、私は身振り手振りおじちゃんに日頃の苦労を訴えました。
「……」
背を丸めて聞いていたおじちゃんは髭面にうっすら笑いを浮かべました。
「――そうかい、」
「……。」
――おじちゃん! はにかんだおじちゃんがあんまり儚げだったので、そのとき私はついおじちゃんを羽交い絞めしたい衝動に駆られました。
けどいつもサダちゃんにやってる要領で力任せにやると、たちまちおじちゃんが、――メキメキバキボキィ! 骨ごと逝ってしまう可能性大だったので、ぐっと押さえて耐えました。
てかおじちゃんをぎゅー!しても、サダちゃんみたくもふもふすりすりできないしぃ……ってん? そっかヒゲんとこ?
(!!)
いっしゅんそーぞーしたらうわぁぁぁぁ!!!だったので、やっぱり結果止しといてよかったです! ふーっ。
「……じゃあこれ、吹いてみてごらん」
おじちゃんが公園の街路樹の実をすりつぶして水に溶いたしゃぼん液を私に渡して言いました。
「ウン!」
最初はりきって勢いよく吹いたので、――パン! 大きくなる前にしゃぼんが弾け飛びました。
「そーっと静かにやるんだよ、」
おじちゃんが手本を見せてくれました。
「……、」
私は息を飲んで見守りました。少しずつ膨らんでいくしゃぼん玉の向こうに、木立越しの街の景色がゆらゆらしました。
おじちゃんがすっとすとろーを引くと、まぁるいしゃぼん玉がふうわり空に舞い上がりました。
「私も!」
口元にすとろーを構えて、今度はゆっくり息を吹き込みます。おじちゃんのと同じかそれより少し大きいくらい、私の作ったしゃぼん玉も公園のトイレの屋根を越えて高く昇って行きます。
「やったねおじちゃん!」
私はチョーシに乗ってどんどんしゃぼん玉をこさえました。街の空中しゃぼん玉で埋め尽くしてやるくらいのつもりです。
「……」
猫背を反らして天を仰いでいたおじちゃんが、……♪♪♪、ふと懐かしい歌を口ずさみました。
しゃぼん玉を吹きながら私はおじちゃんの方を見ました。
しかしおじちゃんの掠れた歌声はそこでぷつりと途切れてしまいました。
俯いたおじちゃんは片手にグラサンを押さえ、肩を揺らしてくつくつ笑い始めました。
「――しゃぼん玉のヤツ、屋根までなんて飛ばなければよかったのさ、」
髭面を歪めて、吐き捨てる口調におじちゃんは言いました。
「ずっと地べたに這い付くばってりゃ、そしたら一時の光景に目が眩んで、叶わぬ夢を追い続けることもなかったろうに」
「おじちゃん暗いよ」
私はおじちゃんに思ったままを言いました。おじちゃんが指先に持ち上げたグラサンが、ギラリと鈍い光を放ちました。
「暗くてナンボ、それが四畳半フォークの醍醐味さお嬢ちゃん」
「“お嬢ちゃん”呼びはやめて!」
……ナンかデジャヴな気もするけど、――ガスッ!! 私はおじちゃんの腹に思きし正拳をカマしました。
「――うッ」
たちまちおじちゃんは腹を抱えて地面にへたり込みました。
「アイヤー、メンゴメンゴあるおじちゃん、」
私は自分のうっかり★ドジっ子さん☆っぷりにテヘペロしながらおじちゃんに手を差し出しました。
「……」
おじちゃんは顔を上げようともせず、擦り切れた半纏の肩は小刻みに震えていました。
「……。」
間の悪い私の沈黙とおじちゃんの啜り泣きと、あとどっかそのへんの工事現場のリズミカルなドリルの音が三すくみに場を支配しました。
私はおじちゃんを泣かしてしまったのです。――いんや、ことによるとおじちゃんはそうしてきっと憚りなく泣くための理由を探していたに違いないのです。
(……。)
――ぱっつんのバカ! 唇を噛んで私は思いました。何だか自分の眼の奥までかぁっと熱いみたいです。
ぐらぐらしている視界の中で、最後まで消えずに残っていたしゃぼん玉がひとつ、梢の先をゆっくり風に流されながら天に昇って行きました。