俄雨
1日ひとりで遊び歩いて、その帰りだ。
雨に降られた。
この数年、ゲリラ豪雨が多いので外出時は必ず傘を持っている。
それを鞄から出してさした。
「これからひどくなるのかなー」
呟いて、暗くなった街を歩く。
早く駅に入っちゃおう…。
あとちょっとで駅、という所だった。
バス停に…彼女の姿があった。
最悪だ、と思った。
浴衣姿の彼女は、何故か目立っていた。
私は思わず、彼女に背を向けた。
何をしているの?
私、何か悪い事をした?
……していない。
私は再び前を向き、彼女の姿のある方へ歩いて行った。
彼女は私を知らない。
けれど…私は知っている。
好きな人が、好きな真っ最中に知らない女にさらわれる痛みが、あなたにわかる?
全身が怒りで燃えてしまいそうだった。
けれど…私は歩いた。
彼女に近付く数メートル前、まるで強い向かい風に向かって歩いているような姿勢に気付き、背筋をまっすぐに伸ばした。
私が俯く必要もうなだれる必要もないの。
体の中の息を、怒りと一緒に外に出す。
そして深く息を吸う。吐く。顔をしっかりと上げる。
多分、その時の私の表情は険しかっただろう。
けれど…そこで彼女がいなくなるまで背を向けているのは「負け」を認めた事になる。それだけは絶対自分のプライドが許さなかった。
私は負けてなんかいない。
この場合勝者が存在するのは、「負けた」と誰かが思った瞬間だ。
だから私は負けたなんて絶対思わない。
時間は続く。
この勝負も、いつか消える日が来るのかもしれない。
勝敗が逆転するかもしれない。
何が起こるか…未来なんて誰にもわからない。
俄雨のように、全てが一瞬で過ぎ去る可能性を秘めてこの世に存在しているのだ。