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幸運と不運の間

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最近同じ夢を見る。
 サングラスを掛けた黒スーツの男が私の部屋の窓の向こうに立ち、手の銃で私を撃つのだ。
 今日も見てしまった。あの日から連日この夢に苛まれ、いつか殺されるのではないかと頭痛も酷くなってきている。私は机の頭痛薬を呑んだ。安心したように息を吐く。
 煙草を手に取り部屋の窓を開けた。庭に面している窓で、加えて私の部屋が一階でもあるために格別景色がいい、という訳でもない。
 私は火を着けようとライターを煙草に近づける。
 瞬間、何者かが目の前にぬっと現れ私は目を見開いた。先程見た夢が脳裏をよぎる。
 窓を隔てて突然現れた何者かは私の口を押さえて、拳銃を突き付けた。
「静かにしろ。騒いだら撃ち殺すからな」
 何者かは低い声でそう言った。
 私は慌てて頷いて、男は手を離す。銃を突き付け、私を睨みながら窓を乗り越えて来た。
「一体……あなたは何者ですか」
 男は目から下を布を巻いて隠していた。それを手でひらひらとさせる。
「強盗だよ」
 それを聞いて私は内心安堵した。
「強盗がこんな安アパートの一文なしに何の用ですか」
 何が可笑しいのか強盗の男は鼻で笑う。
「こんな何もない様な場所に用はねえよ。ついさっき宝石店を襲って、油断して警察に追われている。しばらく、この部屋にいさせてもらうぞ。紐とガムテープを出せ」
 男は銃を持っているし、私よりも体格がいい。私は大人しく言う事を聞いた。
 紙紐とガムテープを男に渡すと、まずは腕と足首を縛られて、口にガムテープを貼られた。次に服と鞄の場所を訊かれ、私は顎で位置を示した。
「別にあんたをどうしようって訳じゃねえ。しばらくここにいてもらうぞ」
 男は言うと何もできない私をベッドの下に入れた。埃が多くて息苦しい。こんな事ならしっかり掃除しておくべきだった。
 ベッドの下から男の様子が伺えた、服を着替えて、顔に巻いていた布を取る。そして鞄に札束と宝石をいくつか入れた。ざっと二千万程か。その鞄は私の視界から移動させられどこかに置かれた。そして男は机の前に座り、私の煙草で一服する。
 何もする事ができず、暇な私は男の後ろ姿を眺めるくらいしか出来なかった。
 数時間くらい経って日も落ちてきた。男は今日一日過ごすらしく、私の夕食であった焼き魚を食べている。
 その時だった。がらりと音がし、庭側の窓が開けられたのだと私はすぐに分かった。
「だ、誰だお前は!」
 男は慌てて立ち上がって言った。
「組織の金を持ち逃げしておいてよくそんな事が言えるな」
 声の主は窓を開けた者だろう。低い声で私には聞き覚えがあった。
「ちょっと待ってくれ。組織の金だと? 私は知らない」
 男は声を上ずらせて、必死にこのアパートの住人になろうとする。
「泥棒は皆そう言うのさ。その顔は整形か? だとすれば、持ち逃げした金はほとんど残っていないだろうな」
 窓側の男は言い、強盗の男が後退りする。
「や、止めてくれ。話せば分かる」
 弁護する強盗の男に窓側の男は容赦なかった。ばしゅっという音が聴こえたと思ったら、強盗の男は倒れて私に顔を見せた。額に穴ができてそこから血が出ている。
 ざっざっと足音が聴こえて、窓側にいた男が去ったのを知った。
 私が手に力を込めると紙紐は簡単に緩んで、死んだ男を押し退けて私はベッドの下から脱出した。足の紙紐をほどき、口のガムテープを剥がす。
 私は男の死体を見下ろして口が緩んだ。
 宝石店を襲った強盗が私を狙った殺し屋を欺いてくれた。一石二鳥とは正にこの事だ。
 この男は床下に埋めて、さっさとどこかに消えるとしよう。これで、恐ろしい夢と頭痛から解放される。
 私は宝石の入った鞄と床下に隠した黒いバッグを持ってその場を去った。
作品名:幸運と不運の間 作家名:うみしお