篠原 めい1
強行発進してきたから追っ手がかかっている。成層圏を脱すれば、そこからは宇宙ステーションや月から攻撃されることになる。それを排除するには、メインブリッジにメインスタッフが集結している必要があった。それを盾にして、めいは僕を連れ出した。慌しく木星までの航行が続いたから、そこまでは、詳しい話をする暇もなかったので、目の前の仕事に従事するしかなかった。
なんとか通信の内容を確認して地球に、それを知らせた。これで、ようやく謀反の疑いは晴れて、地球への帰還が認められる、と、スタッフはホッとしていた。
「帰ったら、やりなおしをしてもらわないとな。なあ、篠原、めいの一番幸せで綺麗な姿を堪能しよう。」
「そうですね。その前に、少し仕事は残ってると思いますけどね。」
通信の内容で判明したのは、とてつもない巨大戦艦による宇宙征服戦争が行われているというものだった。進路は銀河系に向けられていて、僕らも前衛艦隊と戦闘になっていた。だから、この戦争を回避するか打破しなければ、僕らも地球へ帰還はできない。
「新造艦を旗艦とする最新鋭艦隊があるさ。VFの出る幕なんてない。」
「まあ、そうですけど。たぶん、報告が受理されたら艦隊の端っこに配置されると思いますよ。そのまんま証拠隠滅を狙うでしょうから。」
僕らの報告で事態は一変するのだが、発進の許可を出さず、謀反扱いをした極東本部は、その事実をなかったことにするだろう。そのためにはVFは戦闘時に大破して乗務員もろとも消したいはずだ。
「ふん、そんなことさせるか。艦隊への参加要請が来たら、エンジン不良で海王星あたりに逃げ込むぞ。」
「そんなところでしょうね。りんさんに、その報告書の作成は頼んでありますよ、岡田さん。」
「ほおう、悪戯小僧どもは連係プレーも覚えたか。」
「そりゃ二年近く、一緒に組んでましたから。」
二年近く、僕とりんさんは新造艦プロジェクトの仕事に出向していた。僕らが若くて経験が乏しいから修行をしてこい、と、岡田さんが命じたからだ。仕事は忙しいながらも楽しいものだったが、最後にとんでもないことをしでかしてきた。戻ったら、そちらに対して、どう償えばいいのかわからないほどのことだ。そのことは、岡田さんにも話していたのだが、「大丈夫だ。」 と、慰めてくれた。
「あちらさんだって、事情は理解してくれている。それに、おまえらの補佐は松本の手下だ。どうにかしてくれているだろう。そう心配しなくてもいい。戻ったら謝罪だけはしなければならないだろうが・・・・大丈夫だろう。」
「一応、テロリストなんですよ? 僕。」
「テロリストね。まあ、そういう意味なら、今、VFに乗ってるのは全員がテロリストだ。心配しなくてもいい。」
豪快なことを言って岡田さんは笑った後で、僕に顔を向けた。真面目な顔だったから、僕も軽口を引っ込める。
「生きて帰る。それは約束だ。・・・・いいな? 俺と一緒にめいの結婚式に参列して盛大にライスシャワーを降らせるんだ。」
「はい。」
「絶対に無茶はするな。」
「はい。」
「できれば海王星で降りろ。」
「いやです。」
「雪乃もつけてやる。」
「それでもダメです。」
真剣に言い合いをしていたが、どちらも睨んだまま黙り込んだ。その意味を、僕は知っていたし、岡田さんが心配していることもわかっていた。だから、余計にできなかった。生き残るために戦わなければならないというのなら、VFで戦いたかった、もし、何かあっても、一度ぐらいなら岡田さんたちを守れる自信もあったからだ。
「・・・・無茶して怪我したら退艦だ。いいな? 」
「重傷なら仕方がありません。」
「はあ、この頑固者っっ。」
「岡田さん、そっくりそのままお返しします。」
だが、その後の会話は続かなかった。突然にレーダーに補足できなかった物体が左舷後方に衝突したからだ。大きな揺れが起こり、衝撃が起こった。被弾したのだと気付いて、パネルを操作する。
「機関部付近に被弾。・・・・岡田さん、僕はメインブリッジに上がります。機関部へ。」
「了解。」
どちらも技術部のスタッフルームを飛び出して逆方向に走り出した。そこで、一度しか使えない力を使うことになった。もちろん、一度目だから、全員、どうにか助かったのだけど・・・・。