『生きている理由』
人工呼吸器と人工心肺、その他たくさんの管をつけて
それでも彼は生きていた
時折キョロキョロと目玉を動かす仕草、それが彼の脳が生きている唯一の証明だった
ある日、画期的な機械が発明された
脳にそれを繋ぐと、全く動けなくても話ができるという代物だ
今世紀最大の発明の名誉ある第1号に、彼は選ばれたのだ
病院にマスコミが押し寄せ、彼のベッドの周りは騒然となった
病院長は口髭と出っ張ったお腹を揺らしながら、人混みを掻き分けて悠然と彼と機械に近づいた
「皆さん、これは素晴らしいことです
ついに植物状態の人間にも人権が与えられる時代が来たのです
40年の眠りから覚めた彼は、喜びと感謝の言葉を口にすることでしょう
さぁ、ご注目…」
病院長は少々もったいぶりながらスイッチを押した
皆が固唾を飲んでその瞬間を見守った
彼は何を語るのか…
モニターからゆっくりと声が聞こえてきた
知っている人ならば、それが彼の声だとすぐに分かったであろう
けれど、彼の肉声を聞いたことがある人はすでにいなかった
『僕を殺してください
もう両親はとうに亡くなり、
当時の彼女は結婚し、新しい家庭を築いています
顔を見に来るのは医者と看護師だけ
無菌室の中は朝も昼もない
聞こえるのはモニターの音だけ
ただ悪戯に、時間だけが過ぎていく
ああ、誰か僕を殺してください
これだけが言いたくて、僕は生きていたのです』
「な、なんだこれは。冒涜だ!医療の進歩をよしとしない奴らの陰謀だ!」
病院長は真っ赤になって怒り狂い機械を手当たり次第殴りつけた
再び静寂に包まれた無菌室には
壊れた機械と彼が残された…