『おひとりさま』
素肌にまとわりつく布団のひんやりとした感触が心地いい
玄関からベッドまでは、彼女が脱ぎながら歩いた服が軌跡を辿っている
ああ、今日も疲れたなぁ
上司には怒られるしお局様からは嫌味を言われるし
全く、年を取ると人間ってどうも説教くさくなっていけないわ
徐々に人肌に温まり
優しく包んでくれる布団で微睡みながら
里美はさらに思いを巡らせた
明日は休みだから、洗濯は起きたらすればいいわ
溜まってる食器も明日ね
掃除もお風呂も…
今はただ、嫌なことを忘れてひたすら眠ればいい
そして彼女は呟いた………
雄介はベランダで煙草を吸いながら
2本目のビールを開けた
ぷしゅ、と小さな音も煙草の煙も、静かな星空にゆっくりと吸い込まれていく
今日も忙しかった
西へ東へ走り回って、頭下げて
そんで取れた契約はたったひとつ
でもそのひとつをとるためにどんだけ頑張ったと思ってんだ、あの上司
怒られるなんて割に合わねぇ
一気にビールを飲み干す
冷たい感覚が一気に食道から全身を駆け巡る
明日は休みだ、ひたすら酔っぱらって寝ちまえばいい
どうせ暇なんだ、溜まってる企画書も、家事も後回しだ
ビールと煙草があればいい、嫌なことなんて全部忘れちまう
そして彼は呟いた…………
『おひとりさま、最高!!』
そんなふたりが出会うのはちょうど1年後の話………