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『パンドラ』

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僕は産まれてから一度もこの部屋を出たことがない
6畳1間の空間が僕の城
欲しいと思ったものは小さな箱を覗けばなんでも手に入った
食事、服、おもちゃetc…
部屋の中は天井までもので溢れかえって
少しの光も届かない


外に出る必要なんてなかった
だって外の世界は悪意で満ち溢れてるって箱が教えてくれたから


ある日、僕は箱の中で杏奈という女の子に出会った
彼女は優しくて明るくて
僕を好きだと言ってくれた
部屋に射し込んだ唯一の光


僕の部屋に招待しようと思ったけれど、残念それは出来ないみたい


箱はなんだって僕に与えてくれた、僕はそれで満足だった
でも杏奈だけは…
いくら愛の言葉を囁かれても
手を伸ばして触れるのは冷たい画面
杏奈に触れたい、温もりを感じたい


僕は悩んだ末、決意した
履いたことのない靴に足を入れ、震える手でドアを開けた……











健太は今日も携帯とにらめっこしていた

全く、出会い系のサクラも楽じゃねぇ

飯を食うために仕方なくやってるけど、くそっ、こんな気持ち悪い仕事、金が入ったらすぐ辞めてやる…

画面に「新着メールあり」の表示が浮かび、健太はしぶしぶ携帯を開いた

このニート、会いたいとか言ってやがる
『杏奈さん、約束の場所で待ってます…』
だって、誰が行くかこの馬鹿

返事をするのも面倒になって、健太は乱暴に携帯を投げ捨てた
作品名:『パンドラ』 作家名:やぁこ