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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
novelistID. 31338
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クロス 第一章 ~TABLE IN THE SUN~

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マルティーノ通りの西はずれのレオナルド通りと、南に二本挟んだバッカス通りとが交差する角に古い洋館がある。家主のレーマンが改築して、賃貸住宅として貸している洋館だ。オール4LDKの風呂付きである。その五〇二号室にオール・トレード商会はある。オール・トレード、つまりはなんでも屋だ。住人はアレックス・ウィンタースとビリー・トマス・シュナイダー。よく間違われるが、栗色の短髪で一七八センチのアレックスは女だ。元特殊部隊大佐の医学博士で、荒事担当。ビリーは金髪(ブロンド)にグリーンアイズの元アンドロイドのバイオロイドで、一七五センチの男、情報担当である。
 バイオロイドとはアンドロイドに人工臓器を備えたもので、食事も排泄もできる。但しアレックスの設定により、アルコールだけは一切受け付けないようにされている。これはアレックスが大酒吞みだからだ。昨夜もバッカス通りの酒場ディータで痛飲して、マスターのボギーから連れ帰るよう連絡があった。ビリーは文句たらたらで家まで連れて帰ってきた。バイオロイドなので軽々と担いで。バッカス通りはその名の通り、酒蔵やバー、パブ等が多く軒を連ねている。
 ビリーは朝食を作り、アレックスを叩き起こしに行った。
「さぁさ。朝ですよ。酔いは当然醒めてますよね」
「う~ん、まだ寝させて」
「駄目です。一日の始まりは朝食からです。抜いてはいけません」
「頑固頭。融通利かずめ」
「そういう設定なんです。諦めて起きて下さい」
「はいはい。起きますよ。起きればいいんでしょ」
 いつものやり取りで目を覚ましたアレックスは、着替えてリビングに行く。テーブルには朝食が並んでいた。トーストにハムエッグ、野菜ジュースにミルクの朝食だ。
「新聞取って」
「はい。散らかさないように食べて下さいよ」
「あい」
 新聞を広げながらトーストにかじりつき、ニュースを読む。いつもの日課だ。
「テレビ点けて」
 ビリーは立ち上がるとテレビのスイッチを押して、ダイヤルをいつもの国営放送に合わせた。席に戻ると自分も朝食を摂り始めた。バイオロイドなので食べなくても暮らしていけるが、人間らしくありたいと常に思っているので摂るコトにしている。
 テレビは朝のニュースを流している。
「特に今日も変わったコトないなぁ」
「いいじゃないですか。平和だってコトです」
「そうなると仕事が来なくなる。そうだ、下の階のロンをつついてみよう」
「三〇五号室のロン・カーターですか。また迷惑そうな顔しますよ」
「いいじゃないのさ。あの能面サイボーグ野郎」
「なんて言い種ですか。確かに無表情で、右腕がサイボーグですけど」
「決めた。あいつ、決まって昼頃には戻ってくるから、つついてやろうっと」
「やれやれ。とんだとばっちりですね、ロンも」
 ビリーは首を振りながら言った。アレックスは言い出したらテコでも動かないコトを、ビリーは重々承知していた。
 朝食を摂り終え、ビリーが後片付けをしている間、アレックスは筋トレをする。ビリーは花の水替えや部屋の掃除等あれやこれやしていたが、アレックスはひたすら筋トレをしていた。
 昼になり、ビリーが昼食の準備を始めた頃、アレックスはロンの部屋へと向かった。蛇腹格子のエレベーターに乗って三階で降りる。右の突き当たりが三〇五号室だ。
 呼び鈴を押す。
「はい」
「アレックスだ。ちょっといいか?」
 少し間があってドアが開いた。
「なんの用だ」
「なんかいいニュースないかなぁと思ってさ」
「なんもねぇよ」
「なんかあるだろ。別に箝口令が敷かれてるわけでもあるまいに」
「なんにもねぇよ、マジで。なんかあったら、とっくに耳に入れてやってるよ」
「そうか」
「そうだよ」
「なんだ、つまらないな。平和ってヤだな」
「これだから軍人上がりは困るんだ。嵐が起きればいいと思っていやがる」
「なんだよ。いいじゃないか、仕事が増えて」
「オレは刑事なの。事件なんてまっぴら御免だね」
「ふ~ん。税金泥棒って言われるぞ」
「言われ慣れてるよ。とにかく、なんかあったら一番に耳に入れてやっから」
「分かったよ」
「じゃあな」
 ドアが閉まり、アレックスはポツンと取り残された気分になった。そうだ、昼を食べよう。
 アレックスがエレベーターに乗って部屋に帰ると、昼食のいい匂いが漂ってきた。
「どうでした、ロンは」
「なんにもなし」
「そうですか。残念でしたね」
 ビリーはオムライスを作りながら答えた。
「昼はちょっと出かけてきますので、留守番よろしくお願いします」
「あいよ」