実験
通話が切れた。私は慌てて湯を沸かし、洗面器に熱湯を入れ、厚手の防水手袋を両手に装着してからおしぼりタオルを湯の中に放り込み、それで顔の下半分を覆った。そのあとで髭を剃ると、着替えて駐車場に向かった。マンションから出るとすぐ、三毛子を発見した。彼女は道路に寝そべっていた。しゃがんだ私はその頭や頬、背中などを撫ぜてから立ち上がり、再び前方へ歩いて行った。
美結さんのマンションの前に着いたのは、正午を十五分過ぎた時刻だった。道路が驚く程空いていた。随分早く着いたものだと思いながら、電話で彼女を呼んだ。
笑顔の美結さんはショートパンツで現れた。すぐに彼女は乗車して、私たちはステーキの店に向かった。
「早かったのね」
「道路、空いてた」
「小説は?書いてる?」
「うん。書いてる」
「どんなの?」
「それより、仕事あった?」
「ない」
「家賃、大変じゃない?」
「仕送りしてもらってるから、大丈夫」