ベタ×ベタ 【はじまりの交差点】
まず一番についてくるステータスが創設者の孫という烙印である。
小学校くらいまではそのステータスを煩わしいと思っていた透だが、どうしたってこの学園を離れない限りそのステータスはついてくるのだ。
ならば別の学校に行けばいいだけの話なのだが
ジジイ
失礼
祖父母に「せっかく透ちゃんの為に建てた学園なのに」「透に似合う制服を考えたのに」と泣きながら切々と訴えかけられては諦めるしかない。
それならばいっそ開き直ってしまった方が楽だと悟ったのは中学に入ってすぐのことだった。
以来、全く目立つこともなかった透がこの学園で一番の有名人になったのは言うまでもない話である。
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「晶、晶っ!」
はっ、と我に帰った時
晶は思わず顔を真っ赤にしてその場を走り去ってしまった。
そんな晶を追いかけてあわてて友人たちも走ってくる。
姫路 晶も学園で有名な王宮 透を噂には知っていた。
だが広い学園でのこと、学年が同じとはいえ晶はごく普通の一般生徒であり、あちらは生徒会長というマリアナ海溝並に深い隔たりのある関係だ、世間ではこれを無関係という。
それが、それが
「あれはいったい何だ!あれがなんだ、噂の王子様?!白馬に乗って私を月まで連れてってーーーっ!?」
「晶、とりあえず落ち着きなよ。」
人気のない公園で思い切り叫びだした晶に友人はややあきれ顔のまま、ため息をつくと、側のベンチに腰を降ろした。
「それにしてもほんとカッコイイよなぁ、王宮って。」
「うんうん…アイツほどウチの学ランが似合う奴は…って認めてどうすんの!!」
NOOO!と叫びだした晶に友人は再びため息をついた。
「って言うか、そんな焦ることもないだろうに…ただ腰に腕を回されただ、け…」
「回されただけ?回されただけというか?!」
今思い出しても恥ずかしいいっ!とのけぞり叫ぶ晶に、「いまのお前が恥ずかしいよ」と冷静に突っ込む声は届かなかった。
時間にしてほんの数分前のこと。
先に言っておくなら全く自分は悪くない、と晶は主張するだろう。
事実晶は全く悪くない。
ただ場所が悪かったというか、横断歩道の信号が変わるのを待っていた晶は歩道の端に立っていた。
そこに無茶な運転で車を追い越そうとしたバイクが突っ込もうとしたのだ。
跳ねられるか、運が良くても大けがを負うだろうと誰もが思ったその瞬間、晶はなぜか数歩後ろに下がっていた。
ふと気付いた時にはバイクは走り去った後で、晶の腰には一本の腕が回っていた。
「全く、ここの交差点は本当に事故が多い…怪我は?」
まさにロイヤルスマイル。
点描に後光、バックに薔薇や羽を飾っても違和感など全くないだろう。
事実、晶にはそれらの幻が見えていた。
それが自分の学校の王宮透だと気付いたのは襟元の飾りボタンのせいだった。
本当に飾りとしてしか意味を持たないそのボタンは、生徒会長をはじめとる生徒会役員だけがつけていると言う、言わば学園トップの証なのだ。
その後も呆けた晶に「気をつけて帰ってね」などさわやかな笑顔を向けて、さらさらと髪をなびかせて軽やかに立ち去るまで
晶はすっかり透に見惚れてしまっていたという以外になかった。
「ほんと、学園の人気総なめの王子様は伊達じゃないなぁ、うっかり惚れそう」
「んがっ、なっ」
「冗談だって、晶こそ惚れたんじゃないの?王子に」
「だっ、誰があんな奴にっ!俺は認めないからな、絶対に」
ニヤニヤと笑い続ける友人に晶は肩をいからせ力いっぱい叫んだ。
「おれはっ、あんな、オカマみたいな女に惚れるもんかあああああっ!」
「いや、女だったらカマじゃねぇだろ」
王楽学園。
創設者にして理事長夫妻の趣味により、女子生徒は学ラン風のワンピース、男子生徒はセーラー服デザインという
珍妙な制服で有名な学園である。
作品名:ベタ×ベタ 【はじまりの交差点】 作家名:北山紫明