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飛空都市の八月
飛空都市の八月
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SOUVENIR II 郷愁の星

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◆3


 リディアはイライラして神殿の前に立っていた。もうすっかり日は落ち、星々が空に煌めいている。ジュリアスの「ランディ様に街の酒場で気楽に食事をしてもらう」というのは老人たちとランディとの接触を避けるのには好都合な提案だったが、それにしても帰りが遅い。何を話しているのか、リディアはとても気になっていた。
 ランディに会って、今日のことを申し開きしなければならない。昼間は結局話を切り出すことができないままリディアは修練場を立ち去ったから。いや、本当は風の守護聖の力がこの星にどれだけあるのかを尋ねたいのだ。
 そう、リディアには、どの力がどのぐらいこの星にあるのか、まるでわからなかった。天使様−−女王は彼女の目には見えなかった。この一年間、彼女はそれをひた隠しに隠してきた。神官に天使の姿が見えないということは、神官の地位を追われることを意味する。ましてやリディアのように代々その任を受け継いできた家系の末裔がこれでは、人々の罵りは免れない。父がああだったのだ、娘もそうだ、とますます言われることだろう。それがリディアには恐かった。本当はジュリアスに相談したかった。ジュリアスしか彼女にはいなかった。しかし、父の狂乱の引き金をひいた張本人に言えるはずがない。
 あの日、父は炎と鋼の力を祈ろうとした。いかにも天使がそれを望んでいるように説きながら。星の有力者たる老人たちは、人間が住む場所の限られたこの星で地道に【黒い土地】を復活させることより、他の星への移住することを求めていた。そのためには戦争は避けられない。もっと技術と強さを! それが彼らの目的だった。リディアの父も妻を【黒い土地】に奪われたと思っていた。内容はどうであれ、父と老人たちとの望むことは一致していた。
 だが、それにジュリアスは真っ向から対抗して祈りを妨げた。そのとき、微かにリディアの目に天使らしい少女の姿が見えた。白い翼をもち、ふわふわの巻き毛の少女は少し寂しげに微笑んでジュリアスの頭を抱きしめた。人々にはキラキラと光るものしか見えなかったが、それでもその光は、誰の目で見ても聖なるものだった。
 彼女にはその姿が見えた。もしかしたら……父にも見えたのかもしれない。天使からはっきりと拒絶を受けたのだ。そして父は剣を抜いて、狂ったようにジュリアスに斬りつけた。だがジュリアスはまったく動じることなく身を屈めると父に当て身を喰らわせた。誰もそれを無礼な行為として咎めようとしなかった。無礼は父のほうだった。リディアの中で何かが切れる音がし、確かに彼女は剣を携えてその夜父の寝室を訪れた。何をするつもりだったのか、と問われれば、もしかしたら祖先と同じことをしようとしたのかもしれない。あの独裁者を斬り殺した祖先のように星の行末を憂いて。
 否。
 そんな大義名分は、後で付け足したものに過ぎない。それは彼女の中で全く相反し矛盾する二つの思いのうちの一つ。本当は、父を追い詰めたジュリアスを許せない心よりはるかに大きな思い。それがリディアを動かした。
 だが父は、静かな表情で眠るように事切れていた。神官の神官たる所以の銀の錫<しゃく>を握りしめたまま。