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でんでろ3
でんでろ3
novelistID. 23343
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最後の一葉

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私は医師としては未熟なのかも知れない。あの幼い少女の命の灯が消えようとしていることを知ってからというもの、心の中のざわめきを抑えることができない。

「あっ、先生」
「おかげんは、いかがですか?」

少女の白すぎる肌が痛々しい。

「先生。先生からも言ってやってください。この子がバカなことを言い出して……」
「お父さんも先生も嘘をつかないで! 私は、もうすぐ死ぬんでしょう?」
「何を言い出すんだい? がんばれば、お正月には、お家に帰れるよ」
「ううん。私には分かるの。先生、ほら、窓の外に大きな銀杏の木があるでしょう」

病棟の最上階にあるこの個室は見晴らしが良い。病院の敷地内には、三本の大きな銀杏の木がある。その葉は、ほとんど枯れ落ちていた。

「あの一番上の枝に一枚だけ葉が残っているでしょう。あの葉が枯れ落ちた時、私も天に召されるの」

私たちは、その葉を見つめた。その瞬間、一陣の風が吹き去り、その葉を運び去った。

私たちは沈黙した。

「その隣の木の一番上の枝の葉が全部枯れ落ちた時、私も天に召されるの」

その枝には、まだ、数枚の葉が残っていた。

「立ち直りの早いお子さんですね」
「妻に似たんです」

私たちは、その枝を見つめた。その瞬間、突風が吹き、その枝を折ってしまった。

私たちは沈黙した。

「そのまた隣の木の葉が全部枯れ落ちた時、私も天に召されるの」

風下に位置するその木が、最も多くの葉を残していた。

「切り替えの早いお子さんですね」
「母に似たんです」

私たちは、その木を見つめた。その瞬間、雷がその木を直撃し、木は真っ二つに引き裂かれて大地に倒れた。

私たちは沈黙した。

「お父さん、私、死んだら、今度生まれてくるときは、恐竜になりたい」
「ごまかすのが上手なお子さんですね」
「叔父に似たんです」
「そして、地上に、はびこる腐れ外道どもを踏み潰し、臓物を食い千切って地獄に叩き落としてあげるの」
「何を弱気なことを言ってるんだ」
「弱気かなぁ」

「そうだ。元気の出るお話をしてあげよう。鶴と狐のお話だ。鶴は狐をもてなすために、ごちそうを用意した。しかし、以前に狐にいじわるされた鶴は、すべての料理を首の長い壺に入れてしまったんだ。そうすれば、くちばしのない狐は、ご馳走を食べられないからね」
「狐さん、かわいそう」
「そうでもないさ。生きの良い鶴を食べた狐は、大変満足して帰って行ったよ」
「お父さん、ありがとう。なんだか元気が出て来たわ」
「ほんまかいな」
「じゃあ、もう、おかしなことを言って、みんなを困らせるんじゃないよ」
「分かったわ。ほら、先生、窓の外に取り壊し中の大きなビルが見えるでしょう。あのビルが完全に壊されたとき、私も天に召されるの」
「なんにも、分かってないじゃないか」
「それは、そうと、先生。私、嫌な予感がするんですがね」

その瞬間、すさまじい衝撃音と振動が私たちを襲った。隕石がビルを直撃し、完全に破壊してしまった。

私たちは沈黙した。

「私、百歳まで生きるかも知れない」

私もそんな気がしてきた。

窓の外には、冬の気配が迫っていた。
作品名:最後の一葉 作家名:でんでろ3