shrine nest
それは神であったり、時に人であったり。
人は時に良心で人を殺す。
それは純粋で痛いくらいの良心、いや信仰心で。
巫女が消えた。
この情報は一ヶ月もすると巫女は病気で臥せっているというものに塗り替えられた。
もちろんこれは巫女という民の信仰心そのものである存在が失踪したなどという民の不安を煽るようなものを
恐れたためで、もっぱらの嘘である。
そのため、国は巫女を血眼になって探していた。
「巫女様、大丈夫かな」
広場で小さな男の子が父親であろう男性の服の裾を引く。
それに気付いた父親がわが子に振り返り微笑んだ。
「大丈夫、巫女様はお元気になられるよ」
「ほんとに?」
「ほんとだよ」
「何で分かるの?」
男の子が不安そうな顔を父親に向ける。
その不安を和らげるためか男の子の父親は息子の頭をポンと叩いた。
「巫女様はちゃんと受け継がれていくからね」
「受け継ぐ?」
「そう、次の巫女様が大きくなられるまで巫女様は変わらないんだよ」
「じゃあ、この国はずっと平和だね」
「あぁ、巫女様が護ってくださるからね」
それじゃぁ、と父親が広場の北に見える神殿のある丘に向かって手を合わせる。
「巫女様が早くお元気になられますように」
それを、見習って男の子も神殿に向かって手を合わせる。
最近はどこでもよく見かける巫女の復帰を願う祈りだ。
だが、この国民達は知らない。
その純粋な願いが恐怖に変わるということを。
それで人が滅ぶということを。
幸せという一文字を体感させたような家族を遠目で見ていた少女が一人
その広場を跡にした。
作品名:shrine nest 作家名:ふみ