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藤原ヒロキ
藤原ヒロキ
novelistID. 32029
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ここから始まる缶コーヒー

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「杉浦先生泣いとったなあ」
「ほんまじゃあなあ、でも、生徒への卒業プレゼントが缶コーヒーいうてなんじゃろ」
「職員室で先生らあのが、あまっとったらしいで」
卒業式の後、みんなでカラオケに向かい、クラスで活発な男女が、ゆず、19なんかを一通り歌い23時が過ぎた頃にお開きとなった。女子は先に帰ってしまい、男も仲のよかったもの同士でばらばらに解散していった。
「お前、結局、美夏ちゃんに何にも言わんのんじゅあもん」
「何いうとんなら。別にそんな好きじゃねえし」
さっきのカラオケの隅の席で一曲も歌う出番のなかった男3人が土手沿いの公園でオールしようと集まった。3人とも高校卒業までに彼女を作るという目標は果たせなかった。卒業後は、それぞれ大学、専門、就職と進んでいく。
「ええなあ、東京の大学。可愛い娘いっぱいおるじゃろ」
「おるじゃろなあ」
男3人それぞれに悟られないように当分忘れることのできないであろう、ほとんど喋ることもできなかった同級生を思い浮かべた。カラオケでクラスの人気者が歌っていたサヨナラバスがまだ微かに耳に残っている。
「なあ、缶コーヒーいうてファンタやコーラと違ごうて量少ねえがん。同んなじ値段じゃったらもったいねえよなあ」
「自分じゃ買うてのまんなあ」
夜空に浮かぶ星を見上げながらうまいのか不味いのかはっきりしない缶コーヒーを飲み干した。

「あそこのゴミ箱へここからシュート出来たらこれから3年以内に彼女ができることにしようで。」
名案を思いつき、3人とも立ち上がってゴミ箱へ向けてシュートした。
静かな夜の公園にカチャーンという金属がぶつかる音が響いた後、缶は3つとも狙いをはずれ、周りの土の上へ落下した。
「お前のが邪魔したせいで、両方ともはずれたじゃねえか」
「お前らええがな、わいのは届きもせんかったで」
「世の中そんなに甘うないいうことじゃなあ」
3人のため息は夜空に一瞬浮かんだが、星の輝きがそれを打ち消すように一層強くなった。
その後も思い出話しとこれからの話が、星の輝きが弱まり周囲が明るくなるまで続いた。
「おお、日が登ってきたで! 」
土手を駆け上がると朝日が強く3人を照らした。
「まぶしなあ」
口の中に残ったコーヒーの味と、眠気と朝日。今までにない新しい世界がここから始まった 。