君の手をとりたい
古い劇場の最後列の真ん中の席に、僕は座っていた。すぐ後ろにはふるぼけた映写機が鎮座しており、正面のこれまた古く黄ばんだスクリーンに映画を映している。無声だった。そこには色褪せて滲んでしまった記憶が延々と通り過ぎていった。どんなに待ってもエンドロールが流れてこない。延々、延々。スクリーンの中で誰かが生まれ、誰かが死んでいき、脆弱な呼吸だけを繰り返す。誰にも気付かれないように右手の人差し指をそっと折り曲げ、スクリーンの向こう側に潜む目障りな蝶を撃ち落とす。隣にすわる少年が微笑んだのを僕は見逃さなかった。
(劇場へようこそ)
080316