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掌の中の宇宙 外伝

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Episode.1 Анастаси́я




 砂漠をひた走るウニモグ。
 月がウニモグを追いかけてくる。
 今のところは月だけのようだ。
 ステルス対策を十分に施したこの車両は砂漠の真ん中を走り何処か遠くへ走り去ろうとしている。
 運転しているジム・タイラーの隣にはサリーに身を包んだアナスタシア。
 彼女は突然の出来事に驚きを隠せないでいる。


 僅か30分ぐらいの出来事。
 突然、施設全ての機能が停止して、裏の広場には迷彩模様のヘリコプター。
 しかし彼女はそれに乗ることなく、暗闇から現れたジムに連れられて闇夜に走り出す。
 ヘリは夜空に舞い、追跡の人達を弄んでいる。
 少し走ると、其処には大型のバイクが有り、ジムはキーを回す。
 静かなエンジン音。
 彼女はバイクの後ろに腰掛けてジムにしっかりと捉まる。
 バイクは闇夜を駆け抜ける。
 バイクは街に向かうのではなくて、砂漠の方向にひた走る。
 遠くの方ではまだ騒ぎが続いている。
 景色が目まぐるしく移り変る。
 星が流れていく、体は寒さに震えているけど、心はとても熱くなっている。
 沢山の星座が行き先を占っている。
 自分の辿る運命に波紋が起こっている。
 だけどそれも全て予定されていた事なのだろうか? と取りとめの無い思考をしてみたりもする。
 砂漠に着くと、二人はバイクを降りてまた歩き出した。
 「バイクどうするの? 」アナスタシアが聞くと「バイク? 砂に埋もれるだろうね、丁度良いあんばいだ。 其れまでの間に行けるとこまで行こう、遠隔操作のヘリもそろそろ打ち落とされる頃だろうし・・・。」
 少し歩くと、砂漠の中にオアシスが現れた。
 其処には奇妙な程、美しく深い湖が存在していた。
 ジムは小型の操作盤を取り出してスイッチを入れた。
 湖の水は見る見る消えて、其処には一台のウニモグ。
 「このオアシス・・・木も湖も造り物なの?」
 「そう真夏の夜の夢、可能性の一つだよ」
 ジムは車に乗り込んでキーを回す。
 ウニモグは目を覚まして、世界とまた通信を始める。


 恐ろしく手の加えられた特別なウニモグは、それはもう一つの移動する部屋の様だった。
 アナスタシアは運転席から後ろに下がり、部屋の中で座り込んでいたが
 また意を決して運転席の方へ戻っていった。
 ジムは延々と続く砂漠をひたすらに走り続けていた。
 幾つかのモニターを調整しながら、楽しんで運転しているようだ。
 「ジム・・・」アナスタシアが声をかける。
 「ああ、眠くないのかい?かなり疲れているみたいだけどね。」
 「・・・貴方酷い目にあわされるわよ。
 ジム、あなた『銀色の夜更け』に殴りこみかけたのよ、信じられないこんな事する人がいるなんて・・・。」
 「? 俺は唯、君との約束を果たしただけだよ、『銀色の夜更け』の事は俺も僅かだけど知っている、しかし彼らの思想そのものは其処まで否定されるものでは無いような気がするが。
 むしろ金持ちのぼんぼん達が暇つぶしに遊んでいる様に見えるけどね。」
 沈黙を闇が彩る。
 ウニモグのライトは消されていて赤外線を頼りに走っている。
 緑色に輝く機器類、その淡い光に照らされる彼女は千夜一夜なかの1人のように神秘的な感じ。
 「貴方酷い目にあうわよ」
 彼女は呟く。
 歯がカチカチ鳴っている。
 寒さと恐怖が交差しているのだろうか? ジムは、運転を自動に切り替えてアナスタシアの方をみつめる。
 「君は特別な存在だ。
 君はランプをこすった人なんだ。
 君は僕の暗号を鍵も無しに全て解いてしまった。
 火星人でも手足を縺れさせるような、制約を課した巨大な合成数の素因数分解を、一つの時限の中で全て解いてしまった。
 僕は君に呼び出されてしまった。
 君の願いを叶えないといけないんだよ。
 君の願いは・・・『ココから連れ出して』だった、僕のパソコンのモニターにはそう確かに映ったんだよ、だから・・・。」
 お互いの瞳の中にお互いが映りこんでいる、運命の糸が導きあって物語を語り始める。
 「私たちの一族の血は解明されない深い謎に満ちていて・・・その血を受け継いだ者は、高い知能を有する代わりにそれほど長くは生きられないの。
 私はその中でも丈夫な方でもう18年も生きているケド、それでも後数年の命だと言われたわ。
 私達の血は結社においても特別な意味を持っていて、めったな理由ではその血脈を広める事を好まないの、だから私は、あの場所で幽閉されたまま、命を終えなければいけなかったケド・・・貴方『ギークの王』が私の願いに翼をつけてくれた? そういうことなのかしら?」
 ウニモグを外からサポートしている面々、その1人、ジムの息子のゾーイもアナスタシアの話に聞き入っている。
 彼は地球の裏側から、ウニモグを守る為、アナスタシアを無事我が家に迎え入れる為に7歳ながらも働いている。
 『銀色の夜更け」のセキュリティ―システムを全て壊したのはゾーイだった。
 ペンタゴンのXファイルを見るのでさえ数分で出来る彼が、今回の突破では20分以上も費やしていた。
 その事実からしても『銀色の夜更け』の力を知る事ができる。
 ジムが口を開く。
 「アナスタシア、君のその才能をむざむざ塵にしてしまうのは惜しい、僕は君を何処か遠くに連れ去って、そして君にできる事なら命を継いであげたいと思う。
 君は自身が美しい謎に満ちている、今度は僕に謎を解く権利を与えて欲しい。
 僕も王として『深遠なる魔法』を駆使して君の謎に迫ろう。
 そして・・・君が目を閉じていつも夢見ている世界、その話を聞かせて欲しい。
 其処には更に高次な謎が隠されているんだろ? 僕は『電脳の王』としてその謎を解いてみたいと思う、どうかな?」
 アナスタシアは目を閉じる。
 「うん、もしかしたら貴方なら『もう一つの世界』の謎を解いてくれるのかも、私はその場所には行けないけれど・・・『もう一つの世界』は私達の一族にとって深い意味のある処だから。」
 アナスタシアはそう言うと目を閉じたまま暫くじっとしていて、そのまま眠ってしまった。
 彼女に毛布をかけて、ジムはゾーイとの回線を開いた。
 「どうだ?彼女美しいだろ?」「うん、此処から見るとルーブルにでもある彫刻の様な顔立ちだね。
 父さん、後、どれぐらいで砂漠を走破するの?」
 「う~ん・・・。太陽の下ではなるべく動きたくないからな、1週間程かかるかもしれないな、その頃には国境の辺りの警備も少しは緩くなっているだろうし・・・その間、大丈夫か?」
 「まあ・・・だけど明日家にアイリーンが来るって言うんだよ。
 この部屋で遊んでも良い?」
 「ああ、好きにしろ、だけどなるべくチョコやジャムのついた手で機械類に触らせるなよ必ず手を洗わせるんだ、分った?」
 「うん、分ったよ、じゃ僕も寝るけど後は誰がサポートしてくれるの?」
 「ああ、煉に頼んである、後・・・200秒程で交代だなゾーイ今日は良くやった、
今度アイリーンも一緒にディズニーランドに連れて行ってやるよ。」
 「うわ、マジで!ほんと嬉しい。あの子ドナルドに目が無くてさ・・・。」
 砂漠の夜は更にふけてゆく、
 ウニモグは唯ひたすらに国境を目指して走り続ける。

作品名:掌の中の宇宙 外伝 作家名:透明な魚