片耳に貴女の好きな音楽
ガタゴトと揺れる電車の中。
私は友達の海と並んで座席に座っていた。
電車の中は、田舎の電車ということもあり、人が少なくガラガラだった。
私と海は、高校から家が遠く電車で共に長い通学時間を過ごしている親友同士だった。
……表向きは。
「ねぇ、恵莉。どうしたの、いきなり黙り込んで?」
考え事をしていて、しばらく黙っていた私に海は心配そうに話しかけてきた。
それに私はハッとし、海に向き直ると
「ん、ごめん何でも無いよ。ちょーっと考え事してただけ」
と、笑いながら答えた。
それに海は安心したのか
「よかったー。私との話、つまらないんじゃないかって心配しちゃったよー」
と、無何手を当て笑いながら、ホッと胸を撫で下ろした。
(か、かわいーっ!!)
海の可愛らしい仕草に、私は自分の胸がドキドキしているのを感じた。
海は同性の私の目から見ても、物凄く可愛い。
髪は少しくせっ毛でふわふわしていて、体は小柄。少し身長が多い目な私と並ぶと、その小ささがよく分かる。
そして何より海は性格が可愛いのだ。彼女の髪の毛と同じようにふわふわとした雰囲気と話し方。そして誰よりも優しい裏表の無い性格。
実は、そんな海の事を私は恋愛対象として好きだった。
「海……あんたって奴は本当可愛いわね……」
あまりの海の可愛さに、私はぽろっとそんな言葉をこぼしてしまった。
言ってから私は
(しまった……!!)
と、心の中で自分の失態に頭を抱えてしまったのだが、当の海はそんな私の言葉はただの友人間の褒め言葉だと思ったらしく
「そんなこと無いよー。恵莉の方が可愛いよ?」
と、笑って言った。
海より私が可愛いわけ無いのに……と、思いながらも私は「ありがと」と笑った。
そして次の瞬間、海は何かを思い出したように手を叩いた。
「あ、そうだ!」
私は何だ何だと思いながらそんな海の様子を見守った。海が突然不思議な行動に出るのはいつもの事なのだ。
海は自分のカバンをガサゴソと探り始め、しばらくすると目的の品を見つけたらしく、カバンから手を出した。
その手に持っていたものはウォークマンとそれに付いていたイヤホンだった。
「ん、ウォークマン?」
私が訊ねると、海は「うん」と頷いた。
そして必死に絡まったイヤホンを解きながら
「あのね、恵莉にこの前聞かせたい歌があるって言ったじゃない?」
と、言った。
私は最近、海がそんな事を言っていたのを思い出し、頷いた。
「あぁ、そう言えばそんな事言ってたね?」
海は結び目の最後に一つを解き終わり、晴れ晴れとした表情を浮かべながら頷いた。
「うん。それでね、まだ駅まで時間あるし、今ちょっと聞いてもらおうかなーって思って」
と、ニコニコしながら、海の右側に座る私に、左耳用のイヤホンを渡してきた。多分片耳ずつで聞くということなのだろう。
「なるほどね。まぁ、私もちょっと聞いてみたかったし聞いてみようか」
私が海の方見て笑いながら言うと、海も笑って頷いた。
「うん!」
そして海も右耳用イヤホンを耳に付けると
「それじゃあ、流すよー」
と、再生ボタンを押した。
曲が再生され、私の耳には心地よい音量の軽快なポップソングが流れてきた。
曲は女の子が歌う、女の子目線の片想いの歌で、歌詞がとても可愛らしかった。
その曲の詞、海への私の想いと重なる所があり、自然と私の心にも染み渡ってきた。
そうして一曲を聴き終えて、音が止まらなかったので海のほうを見ると、海は目を閉じて眠っているようだった。
(……海、昨日よりあまり寝れてないって言ってたしな……)
今朝海が言っていた事を思い出しながら、私は起こさないように海の頭を軽く撫でた。
そして、海の頭をそっと私の肩に傾けさせると、海の右手を握った。
(……こういうのを役得、って言うんだろうなぁ)
なんて、クラスの海を好きな男子たちを思い浮かべながらしみじみと思った。
耳元に流れるのは、海の好きな音楽。
肩には海の重み。
右手には、海の温かさ。
この、幸せな時間が永遠に続けばいいのに。
私はそんな乙女な事を、柄にもなく思った。
-END-
作品名:片耳に貴女の好きな音楽 作家名:鈴音