蒼い星
家の唯一の小さな窓から外を眺める事が大好きなカナは、母親にそう言われてもなかなか動かない。
キッチンで洗い物をする手を止め、もう、とため息をついてからもう一度愛娘の名前を呼ぶ。
「わかってるってぇ~」
カナの方も返事をしてから、もう~と頬を膨らませて窓から離れた。
窓の外は闇。
星の瞬きが一つ、二つ見る事の出来る宇宙空間だ。時折ステーションを行き来する輸送船が護衛船を見る事が出来る。
最初、護衛船の艦長である父親の帰りを待っているのかと母親は思っていたが、そうではなかった。
父親が出港した日も、その翌日も窓の外を眺めていたからだ。
「何を見ているの?」
不思議に思った母親が尋ねると、カナは「星だよ」と答えた。
一つ二つしか見る事の出来ない星。
その小さな瞳でもう一つ探しているのだろうか?
船に惹かれ、父親のように船乗りになってしまったらどうしようかと思っていた母親は内心胸を撫で下ろし、カナが宇宙を眺めることを五月蠅く言わなくなった。
けれど宿題もぜずに見ている時は別だった。
「カナ~。始めた?」
「始めたよ~っ!」
不快感いっぱいの返事にしかし母親は満足したようで、キッチンから出てこない。
当のカナはリビングのテーブルに白い紙と絵の具の用意をして腕組みをしていた。
「あら、お絵かきが宿題だったの?」
「そうよ」
言ってカナは出来上がりを母親に見せる。
「地球ね」
「うん。いつかパパの船に乗せてもらって見たいなぁ」
「そうね」
暗い宇宙に蒼く輝く地球の絵を見て頷くと玄関が開く。
「ただいま~、カナ」
「パパ!」
全速力で走って飛びついて、抱き上げられる。
「おかえりなさい」
「良い子にしてたかな?」
「うん。宿題、ちゃんとやったよ」
「そうかそうか。えらいな」
「パパ、明日出港の日よね?」
「ああ」
足をバタつかせて下ろしてもらうと、カナは父親の手を引きリビングへと連れて行く。
テーブルの上の蒼い地球の絵に目がいった。
「カナが描いたのか?」
「うん」
「いつかパパの船に乗せてもらって見たいそうよ」
ほんの少し眉を寄せて父親はしゃがんで視線を合わせる。
「そうか……カナ」
「あのね」
父親の言葉を遮ってカナは真剣な瞳で、
「パパが地球の近くに行ったらこれを落としてきて。そうしたらまた本に描いてあるように青くなるよね?」
手渡したのは青色の絵の具だった。