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進化するパスワード

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『進化するパスワード』


高見沢はメール画面を見ながら物思いに耽っている。
表情は深刻そう。
だが、その実は大した話しで悩んでいるわけではない。

単に社内メールのパスワードを変更しようかと迷っているだけなのだ。
セキュリティの観点から、定期的にパスワードの変更が会社から指示されている。

高見沢は脳が固まり始めた熟年サラリーマン。
そのためか、この変更作業が結構面倒。
それ自体は単純作業、だが今のパスワードを愛用してほぼ一年が経過。
従って、再設定方法を画面の中から探さなければならない。

「パソコンて、なんでいつもこんな邪魔臭いものなんだよ」
文句の一つも出て来る。

その上に、新しいパスワード、不思議に直ぐ忘れてしまう。
その唯一の解決策は、キーボードの余白部に書き込んでおく、これしかないのだ。
しかし今回は、「久し振りのパスワード変更か、これはサラリーマンの義務、心機一転、変更してみるか」と気合いが入って来た。

振り返ってみれば、
パソコンと付き合い出してからの苦節ウン十年。
思い出したくない事も、そしてその便利さに感動した事もある。
そして、いつもそこにはパスワードが寄り添っていた。

ともに歩んで来た幾星霜、パスワードは時代の流れとともに変化して来た。
言い換えれば、それはその時々の生き様に応じ、進化して来たとも言える。


作品名:進化するパスワード 作家名:鮎風 遊