仰げば尊し
そう歌えというのだ。誰が? 俺の担任だ。
卒業式の数日前、式歌の練習があった。
誰も、まともに歌いやしねぇ。俺のクラスが一番ひどい。
なぜか、と問う担任に答えてやった。
「あんたが嫌いだからだ。尊敬なんか出来るか」
他の奴らと同じように、シカトしてれば良かったんだ。
反抗して見せる価値もない。そんな奴だった。
じゃあ、こう歌え。と、担任はヘタクソな字で黒板に書きなぐった。
「仰げば尊し 和菓子の恩
押し絵のにワニも 早い苦と瀬
重エヴァ いと都市 この都市、月
今こそ 分かれ目 いざさらば 」
こいつは、いつもずれている。狂っていると言っていい。
そうじゃ、ねぇだろ。教えるのは、逃げ道じゃなくて、教師の威厳だろ。
だから、あんたが、嫌いなんだ。
何で嫌いなんだ? 他の連中は、とっくに嫌うの通り越して、あきれてる。
嫌う価値もないんだ。
卒業式当日、式歌を歌う奴は、やはり少なかった。
どういうわけだか、俺は歌った。
黒板に殴り書きされたあの歌詞を。
そういや、この後、紅白まんじゅうが配られるんだっけ……。
俺は甘いものが嫌いなんだ。
あいつにくれてやる。