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B.R.C 第一章(1) 闇に消えた小さき隊首の背

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#07.抜かれた刀【B】



 開始の声を上げても、誰も動こうとしない。
 試合を拒否するため、興味がないため、様子を窺うためと、その理由は様々だ。しかし、男たちはそれに納得しない。

「我々の言葉は中央四十六室のものであると告げたはずなんだが……まあ、いい。動かぬなら、動かすまでよ」

 突如、室内に硬質な音が響いた。すると、

「ぐ……っ、ああぁぁっ!!」

 苦悶に満ちた悲鳴が上がる。

「修兵っ!!」
「檜佐木さんっ!!」

 くぐもった悲鳴を上げたのは檜佐木だった。
 ギリっと鳴る程に強く歯を噛み締め、その額には脂汗が滲んでいる。
 彼の両隣に在る松本と伊勢は、ダラリと力無く垂らされた檜佐木の右腕に、尖った声を上げた。

「さあ、早く始めたまえよ」

 檜佐木の腕を何の躊躇いもなく折った男が、脅すように左腕にも手をかける。

「何なら、男ではなく女にするか。そうだな……、あちらの少女などどうだ」

 視線の先に居るのは、ピンクの髪をした、少女と言うよりは幼女に近い草鹿だった。

「はっ! くだらねぇ!」

 ビリリと空気を震わせたのは更木だ。

「そんな脅しなんかいるかよ。俺は、好きにさせてもらうぜ」
「更木隊長、何を……っ!」

 一歩、二歩と進み出た更木に、隣に立つ浮竹が目を丸くする。

「おぉ、怖ぁ」

 飄々と声を上げるのは市丸。怖いと言いながらも、その口元にはいつもと変わらず笑みが浮かんでいる。
 こんな状況を楽しんでいるようにしか見えない市丸を、向かいに立つ砕蜂がきつく睨みつけた。
 更木が動いたことにより、場はいっそう張りつめた空気に支配された。男たちは、それを肌で感じ取り、ニヤリと満足そうに笑う。

「やめろ剣八っ!!」
「うるせぇぞ、一護! てめぇは後だ、大人しく待ってろ!」
「―――――っ!!」

 向けられた膨大な霊圧に、ぐっと一護は足に力を入れて耐える。

「俺は、強ぇ奴と戦(や)りてぇ。生きようが死のうが関係ねぇ。ただ、戦(や)れりゃそれでいいんだよ」

 剣呑な光を宿す隻眼が向けられた先は、

「なぁ―――山本のじいさんよぉ」

 総隊長である元柳斎。
 腰に下げた、刃毀れの激しい刀が引き抜かれ、その切っ先が元柳斎の眉間を捉える。

「行くぜっ!!」

 ダンっ! と更木が床を蹴った。
 元柳斎は動かない。
 隊長たちの間を駆け抜ける更木。それを静かに見据える元柳斎。
 更木は、刀を振り下ろした。


 ガギィン―――……っ


 火花が散った。

「てめぇ……」

 更木は目の前の相手を睨み上げた。
 元柳斎は静かに閉じた目を開き、目の前に広がる白を見やる。

「元柳斎殿に刀を向けることは、儂が許さん!」
「狛村隊長っ!」

 更木の前に立ち塞がる巨体。その名を呼んだのは、彼の副官である射場だ。

「はっ! 上等だっ!」

 拮抗していた刀を狛村が弾き、更木はさらに霊圧を上げる。

「狛村!」
「止めるな、東仙!」

 それに呼応するように狛村の霊圧も跳ね上がった。
 隊長格の霊圧がぶつかり合う。その強大さに、席を持たないルキアの身体が震える。席官クラスの力を持っているとは言え、隊長格二人の容赦ない霊圧は辛い。副隊長たちですら、その額に汗を浮かべている。

「こら、あきませんわ」

 市丸の手が、腰に伸びる。その向かいで、砕蜂も斬魄刀の柄を掴んだ。

「まったく、時間の無駄だネ。―――掻き毟れ」

 涅は斬魄刀を解放し、警戒するように京楽と浮竹が身構える。
 今まさに、中央四十六室の望む展開へと進もうとしていた。

「おいっ! ふざけんじゃねぇっ! 何刀抜いてんだよっ! 何殺(や)り合おうとしてんだよっ!」

 一護の怒声。

「お前ら仲間じゃねぇのかよっ!!」

 中央四十六室がどれほど偉い存在なのか、一護にはわからない。わからないから、今目の前の事がとてもくだらないものにしか見えない。
 一護は斬月を握った。
 戦うためにではない。くだらない理由に振り回される彼らを止めるために、だ。

「せっかく楽しくなって来たというのに、水を差すでないよ」

 一護の行き先を阻んだのは、ルキアを脇に抱えた男だった。
 踏み止まった勢いに、キュっと床が鳴る。

「そうだな。対戦相手を指名するようには言われていないが、特別だ。貴様の相手を決めてやろう」

 男の顔が愉快そうに歪む。

「朽木白哉だ」
「な―――っ!」

 甲高く刀を打ち鳴らす狛村と更木を前にしても閉じた目を開けることなく静かに佇む白哉に、男の視線が向けられる。

「兄、様……」

 ルキアの声が震えた。

「さあ、来い。朽木家の当主よ」

 呼ばれ、緩慢に開かれる目。

「貴様はどちらを選ぶんだ?」

 自分の命か、一護の命か。
 副官の命か、義妹の命か。
 残酷なまでに冷徹な選択肢が掲げられる。
 一護は思った。本当に、これは“暇潰し”であるのだと。中央四十六室という地位に胡坐をかく者達の遊びでしかないのだと。
 感情を覗かせない白哉の瞳と、激情に揺れる一護の瞳が交錯する。

「白哉……っ」

 スっ、と白哉が動いた。前にではなく、後ろに。
 その場から後退した白哉に向けて一護が声を張るよりも早く、彼の視線の先、白哉が今まで佇んでいた場所に鈍く光る刀身が突き刺さった。
 斬魄刀だ。
 一護は目を見張り、白哉から視線を外す。
 向けた先は、大きな更木の背中。そのさらに向こうに在る狛村の巨体。狛村の手に、斬魄刀はなかった。

「終ぇだな」

 チャキ、と更木の斬魄刀が鳴った。
 振り下ろされるそれを受け止めるものは、今狛村の手にはない。今まさに頂上から振り降ろされようとしている刀に、鬼道を発動する暇はない。その身一つで受け止められるか、否か。おそらく、答えは後者だろうと狛村は踏んだ。
 身を切られるのは構わない。しかし、それで死ぬわけにはいかない。
 後ろには仕えるべき元柳斎が座し、前には共に歩んできた射場の姿がある。 
 負けるわけにはいかない。しかし―――。
 ゴウ、と風を切って振り降ろされる斬魄刀。
 誰かが何かを叫ぶ。
 それは射場だったか、一護だったか、はたまた別の誰かか。
 それは怒声だったか、悲鳴だった、はたまた別の何かか。
 わからない。
 狛村と更木。今、彼らにとって世界は二人だけしか存在しなかった。
 互い以外に何も見えず、何も聞こえない。
 何も―――――。