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てっしゅう
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神のいたずら 第五章 家族旅行

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第五章 家族旅行


一学期の終業式を迎えて碧は初めて通信簿を受け取った。担任の清水先生は後で職員室に来て欲しいと碧に言った。何だろうかと考えながら、職員室の扉を開けて中に入った。

「小野です。清水先生は?」
「前島先生と教頭室にいるわよ。そちらに入って下さい」
「はい・・・」

前に優と話した部屋にノックをして入った。
「小野さん、こちらです。呼び立てしてすまなかったね。話と言うのは・・・成績のことなんだよ」
「成績のこと?ですか」
「まあ、座りなさい・・・今まで長く教師やってきて初めてなんだよ、小野さんが、全科目テストで100点を取ったことが」
「そうですか・・・」
「前島先生とも話していたんだけど、どうやって勉強をしているのだろうか聞きたいなあって思ったから呼んだの。何か他の生徒に参考になるようなことがあったら聞いてみたいなあって思っているんだけど・・・どうなの?」
「先生、特に勉強はしていません。小学校の成績は知りませんが、今は何故か全部解るんです・・・信じて頂けないでしょうが、理解できるんです」
「そうか・・・特に何もやっていないのか。塾も行ってないのか?」
「行ってません・・・今は必要ないって思いますから」
「自信があるんだね、小野さんは。ありがとう、変なこと聞いてごめんね。二学期も頑張ってこの成績で行きましょう」
「はい、約束します。先生、聞いていいですか?」
「なんだい?」
「何故、ここに前島先生がおられるのですか?」
「特に理由はないぞ・・・小野さんのことを話していたら、自分も聞きたいって言われたから、お誘いしただけだよ」
「そうでしたか・・・変なこと聞いてすみませんでした。帰ります」

碧の中にいる隼人は清水が優を気に掛けているんじゃないかと疑ってしまった。そのことは自分では止めることが出来ない話だが、優が他の男性に誘われることを、まだ許せない気持ちが残っていた。

家に帰ると携帯に優からメールが来ていた。
「さっき私が何故ここに居るの?って聞いたわよね、どうして?」
碧はどう言おうか迷ったが・・・素直に自分の気持ちで返事した。

「清水先生と仲良くして欲しくないから・・・そんな事言える立場じゃないけど、何故だかそう思ったから言いました」

直ぐに着信音が鳴る。
「清水先生とはそんな関係じゃないのよ。あなたが疑うようなことはないから。知っているでしょ?私のことは・・・」
少し安心した。やはり優は隼人のことがまだ忘れられないんだと・・・

「解っているつもりでしたが・・・気になって。ゴメンなさい。名古屋に行く日はいつにしますか?早めに両親に話したいので決めて下さい」
優からの返事で、週末の金曜日になった。碧は由紀恵にその旨話をして、往復の新幹線料金と食事代として30000円を貰った。久しぶりに手にする大金だったから直ぐに財布に仕舞って、持ち物のバッグと一緒に机の上に置いた。着て行く服も決めていた。

「父親も母親も優の姿を見たらどう思うだろうか」と考えた。きっと自分の葬儀のとき母親は詫びていただろうから、再会は喜んでくれそうな気がする。まして碧と一緒なら娘と孫に会えたように感じられるかも知れない。気持ちは高ぶっているが、優への思いも両親への思いも、碧の感情から眺められる余裕があった。それだけもうこの少女の中で自然と溶け込んできている女心に影響され始めていた。

自分をとても大切にしてくれる由紀恵の存在。優しくなんでも話し合える姉弥生の存在。寡黙ではあるが大人として見ていてくれる父秀之の存在。頼もしく自分を守ってくれる達也の存在。すべてが碧の人間形成に大きく影響して、成長させていた。早苗医師のカウンセリングを受ける必要も無いほどに回復している隼人であったが、しばらくして訪れる身体の変化に別の意味で気持ちが揺れることになる。


東京駅の新幹線ホームに碧は母親と一緒に優を待っていた。白いブラウスとジーンズ姿で優はやって来た。

「お待たせ碧ちゃん。あら!素敵なお洋服ね・・・ミニスカートが可愛い!とっても似合ってるわよ。お母様、おはようございます」
「先生!ありがとう・・・先生もミニ穿いて来れば良かったのに」
「もう無理よ、そんな可愛い格好なんて・・・年だから」
「あら、先生歳だなんて!私なんかどうしますの?」
「すみません余計な事言って・・・」
「謝らなくていいよ、ママはダメだけど先生はまだまだ若いから大丈夫だよ!」
「まあ、この子ったら・・・正直なんだから、ハハハ・・・」

のぞみ号がホームに入ってきた。

「では、行って参ります。ご心配なく、傍を離れませんから」
「先生、よろしくお願いします」
「ママ、行ってくるよ・・・」

夏休みに入って週末の新幹線は混んでいた。幸い二人掛けの席だったので隣を気にせず話が出来た。

「碧ちゃんは何か飲む?」
「先生は?」
「そうね、コーヒーにしようかな」
「私も・・・じゃあ、車内販売が来たら買おうよ」
「そうね、そうしましょう」

「ねえ?聞いていい?」
「何?変なことは聞かないでよ碧ちゃん」
「うん、先生は結婚したいでしょ?赤ちゃんも欲しいし・・・隼人さんのこと忘れられるの?」
「そうね、・・・碧ちゃんには難しいかも知れないけど、忘れられなくても誰かと結婚して子供生んで幸せな家庭は作れると思っているのよ」
「そう・・・胸に仕舞い込んで暮らすって言うこと?」
「忘れようと思えば思うほど、思い出すものなの・・・恋人って。まして隼人さんは死んでしまったから忘れることなんて出来ない・・・」
「辛いね・・・碧も同じ目に遭ったらそうなるのかなあ」
「どうかしら・・・案外しっかりしているからそうならないかもね」
「そうですか?しっかりなんてしてませんよ・・・」

そんな風に見られているのかとショックだった。

車内販売がやってきて二人はアイスコーヒーを買い、飲みながら話を続けていた。

「先生だから話すけど・・・碧はこの頃身体の調子がおかしいの」
「えっ?どうしたの・・・夏風邪でも引いたのかしら」
「違うよ・・・良く解からないけど、おっぱいが痛いの」
「なんだ、そうなの・・・まだだったのね」
「うん、お姉ちゃんがもう直ぐだからって話してくれたんだけど・・・不安なの」
「大丈夫よ。女の子はみんなそうなるんだから。先生も小学校の六年の時にそうなった。直ぐ慣れるから・・・」
「そうなの・・・だったらいいけど」

優は不安に思っている碧の表情を悟って、左手を差し出して右手と繋いだ。
「先生・・・」
「先生が泣いていた時碧ちゃん優しくしてくれたでしょ?とっても嬉しかったの。今度は私がそうする番・・・母親も言ってたわ。あの子は強い子だけど寂しがりやだから優が力になってあげないと・・・って」
「お母様が?碧のことそう言ってくれたの?」
「そうよ。母は人の気持ちが良く分かる人なの・・・しばらく看護師をしていたからかも知れないけど、碧ちゃんのこと気にしてた」