ワガママ王子とじゃじゃ馬姫
東京の羽田空港。
修学旅行の最終日のお土産を買う時間に、僕は幼馴染の綾と一緒のストラップを見ていた。
「わーっ! 伊織、見てみて、このストラップ可愛いー」
僕はコソッと周りに居る中学の制服を着たクラスメートたちに変な目で見られてないかを確認してから、綾に向き直った。
「ストラップって……そんな小学生じゃ無いんだから」
そうため息をつきつつ、綾の持つストラップでは無く、別のストラップを見ながら言った。
「小学生とは失礼な。女の子はずっとストラップが好きな生き物なんだよ? 分かってる?」
そう言った綾を横目で見ると、綾は少し顔を膨らませていた。……まるで子供みたいだ。
「そんなの分からないよ。……って言うか、ストラップが好きな生き物って……。……で、見せたいストラップってどれ?」
僕は綾の下げられた手を見ながら聞いた。
「あ、うん……」
思い出したように綾は視線を自分の手に向けると、その手に握られたストラップを指でつかみ僕へと見せた。
「見せたかったのはこのストラップ。可愛くない?」
そう、綾が僕に見せたのは王冠のモチーフがついた女子向けであろうストラップだった。
「可愛いけど……」
僕はそう言いあぐねながら考えた。最近の女の子はこういうのが好きなんだろうか。……なんだか王冠って物凄く仰々しいイメージが僕はあるのだけど。
「けど、何よ」
綾は僕の返事が気に入らなかったらしく、少し不機嫌そうに言った。
それを見、僕はあわてて
「あ、いや、可愛いと思うよ、うん!」
と、取り繕った。綾は怒らせると物凄く怖いのだ。
すると綾はうれしそうに
「そう? それなら良かった。じゃあ買って来ちゃうね!」
と、レジに走って行き、僕はそれを見送った。
しばらくして、ストラップを買ってきた綾は僕の前で袋を開けると、ストラップを僕へ差し出した。
「はい」
「はい、って。……えぇっ!?」
どういう事だ、と僕は目を丸くして言った。
「それって、お前のじゃなかったのか?」
それに綾はすっとぼけたように
「えー、違うよ? 伊織にあげようと思って買ったんだよ」
だから聞いたんじゃん、とニコニコ笑う綾。
しょうがないから、僕はそれを受け取り
「ありがとな」
と、言った。
「何で僕に王冠?」
そう僕が聞くと綾は
「だって伊織、ワガママな王子様みたいなんだもん」
と、またも意味不明な事を言って返した。
貰いっぱなしも悪いので、じゃじゃ馬姫な奴には、先ほど僕が見ていたガラスのモチーフのストラップを買ってやった。
綾は「本当、東京って可愛いものが沢山あるよねー」とか言ってニコニコと嬉しがっていた。
そんな綾を、僕はほほましい気持ちで見ていた。
綾から貰ったストラップをずっと大切にしよう、と思ったのは綾にだけは内緒だ。
僕と君の
修学旅行の宝物。
-END-
作品名:ワガママ王子とじゃじゃ馬姫 作家名:鈴音