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天国へのパズル 閑話休題 - tempo:adagio -

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 カミラに案内され、部屋に入ると中は薄暗く、ヨリは玄関傍に洋服等の入った紙袋を置いた。ついでに、背中にずっと背負っていた刀の袋も傍に置く。メイが在り合わせの布で作ったと言っていたが、背中に背負えて軽いし、グレーの合皮だから目立たない。携帯には丁度良くて、メイの気配りにヨリは感謝していた。
 自分の服装が妙に気になり鏡を探すが、薄暗い部屋には大きな鏡は見当たらず、ガラス窓には何も映らない。
 アンジェラとメイは、ヒナと同じ様な事を言った。

 可愛い、綺麗と言われるのはいい事だ。

 先程オリバーから可愛いと褒めてくれた気がした。それは、少しだけ嬉しいと思った。言葉の受け取り方は言う人間によって変わる。過去に仕事に行って清掃員の男から尻を触りながら可愛いと言われたとかは、多分違うものだ。
 それが嫌で仕方なくて、肌を晒すのも体型の分かる服も嫌っていた。それに、服は身体を守る為に着るもので、それが動き易ければ問題ないと思っていた。
 アンジェラ曰く、ルカはそれでいいらしいのだが、女はそれが駄目だという。
 だからと言って、どんな格好が可愛いのか分からない。せせら笑うルカを叱りながら、メイが着慣れた服装に近いものを探してくれた。
 肌触りは気持ちいいけれど、軽すぎてどうにも落ち着かない。今のうちに靴だけでも履き替えようと屈む。が、しかし。その履きなれていない靴の所為で、そのまま滑って袋の上に崩れ落ちた。下敷きにした袋の中身をばら撒き、紙袋がヨリの頭に被さる。その物音からかすぐ傍のソファから誰かが起き上がった。
 薄暗い部屋に明かりが点る。ヨリは驚いて後ろに後ずさったが、ジンが呆れ顔でヨリを眺めていた。

「大丈夫か?」

 可愛い格好をして。そう言って笑った。ヨリは頭に乗った紙袋を投げつけた。
 可愛いと言われても、全然嬉しくない。唇を噛んで起き上がろうとするヨリを、ジンは軽々と抱き上げ、落ちた服と紙袋を持つ。

「離して!」
「着替えたいんだろ。それなら玄関先で脱ぐな。」
「服は脱いでない!1人で歩ける!」

 喧嘩をしているわけではないが、このままだと何かに負けてしまう気がして、腹が立ってジンの背中を叩いた。しかし部屋の中では、もがく時も一瞬で、あっという間に寝室に辿り着く。そして、ヨリを下ろすと同時に抱きしめた。

「悪い……迎えに行かなくて。」
「大丈夫。アンジェラが連れてきてくれたし、カミラが此処に入れてくれた。」

 謝った事で誤魔化されるか。しかし、違和感があった。抗おうにも動けず、息もできない。この人はこんな事をする人だろうか。ヨリはそっとジンのシャツを引いた。

「苦しい。」
「ああ、すまない。」

 見上げると、ジンはどこか疲れた顔をしていた。
 さっきまで寝ていたみたいだが、まだ疲れは取れていないらしい。
 その原因に、何だか自分が含まれている気がして、ヨリは申し訳なさから何か言うべきか必死に考える。

「ご飯、食べよう。カミラがさっき美味しいものがあるから、夕食にしろって分けてくれた。だから、一緒に食べよう。」

 美味しいご飯を食べよう。
 とっさに出て来たそれは、罵られて嫌な気分になる度にヒナが言った言葉だった。
 この男がどんな生活をしていて、どんな事を考えているかなんて、まだ知らなかった。それに考えたところで、気持ちが楽しくなる歌も知らないし、面白い話も励ます言葉も思いつかない。
 腹が減っては何とやら。ご飯を食べれば、嫌な事は軽いものに代わる。更に眠れば軽くなる。考える事は体力を使うし、軽くなってから悩めばいい。
 必死に言うヨリを見て、ジンは吹き出した。

「ありがとう。」

 礼を言われたのに、ヨリは的外れな事を言っていた気がして、羞恥に頬を赤くしてそっぽを向く。
 ヨリの頭を撫でた。

「しかし……もう、カミラに気に入られたのか。」
「分かんない。ご飯は引越し祝いだって言ってた。まだ玄関に置いてある。」
「なら、中身を確認してからパンでも買いに行こう。ここがお前の部屋。あっちが俺の部屋。着替えるまで待ってるから、一緒に行こうか。」
「うん。」