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気づかない雨の世界

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「ねぇねぇ。何でここの水たまり、雨が降ってないのにポツポツしてるのかな?」
「知らねぇよ、そんなの」
「ちゃんと考えてよ。・・・ねぇどう思う?」
「え、僕?そうだな・・・。きっとこの水たまりは別の世界につながっていて、そっちの世界はきっと雨なんだろうね。こっちの世界が晴れだから向こうは雨なんだ。逆の雨なんだよ」

今思えば、我ながらメルヘンチックな考えだったと思う。学校の帰り道でたまたま見つけた水たまりが、別世界につながっているなんて、馬鹿馬鹿しくて仕方が無い。
あの後、友人に馬鹿にされ笑われた。まぁ当然のことだろう。
そんな昔の苦い思い出も、ほんの少しだけいい思い出な様な気がする。成長したってことかな。
思い出に浸っていた僕だが、何かが気になり急に足を止めた。路地裏だ。
確か、ここにあの水たまりがあったはずだ。また学校の帰りにこの路地裏が気になるなんて。おかしな偶然もあるものだ。昔と違うところと言えば、小学生じゃなくて高校生だというとこと、周りに誰もいないというところ。
ずっとこの路地裏の前を通っていたのに、あの時以来こんなに気になって仕方が無いのは初めてだ。僕はそのまま好奇心に従うまま、路地裏に入った。
じめじめとしていてうす暗い。ここを通るのはこれで二度目だ。一度目の時は誰かが入ってみようと言ったから通ったんだ。皆気になっていたから、誰も反対せずそのまま入ったわけだ。
路地の中間あたりに着いた。すると、ぽつんと小さな水たまりがあった。
なんだか懐かしくなって、その水たまりを覗きこんだ。透き通った水には二つの建物の間から見える青い空と、水たまりを覗きこむ僕の顔が映っていた。
テーブルの上に水をこぼしたように広がっていて、どこにでもあるような普通の水たまりだ。ただ、二つだけ不思議に思うことがあった。一つ目は、昔と変わらず、雨も降っていないのに水面に小さな波紋が広がっていること。二つ目は、ここ数日雨が降っていないのにこの水たまりは乾いていないのかということ。
きっと、波紋が広がっているのは地面から空気が出ているからで、乾いていないのは日当たりが悪いせいだろうと僕は思いこんだ。
こんな風に思うようになったってことは、やっぱり僕は成長したんだな。


君の世界が晴れだから、僕の世界は雨。少し迷惑だけど、別に雨は嫌いじゃないから気にしないよ。僕らが君たちを知っているから、君たちは僕らを知らない。なんでかって言ったら、そりゃ・・・。逆の世界だからね。
また今日も僕はそこに行く。皆は別に気にしていないようだけど、僕はとても気になるんだ。
どんよりとした雨雲の下、陽気な鼻歌を歌ってお気に入りの傘をさしながら、僕はある場所を目指して歩き続ける。雨が傘に当たる音がとても心地よい。時々土のにおいもする。
雨の中を機嫌よく歩いていた僕は、ある路地裏に入って行った。目的を目指してスキップをしているかのように軽快に歩いた。そして、路地裏の中心部に小さな水たまりが見えた。地面にそっと水を流したかのような形をした、普通の水たまり。僕は暇さえあればここに来る。あの時から、ほんの少しだけ期待しているからね。
しゃがみこんで水たまりを覗いてみる。透き通った水には二つの建物の間からどんよりとした灰色の空と、水たまりを覗きこむ僕の顔が映っていた。
特に変わったところはないが、向こうに人がいるように思えた。なんだか懐かしい。昔もこんなことがあった。
あぁ、きっと君なんだろうね。この感覚、忘れたわけじゃないよ。きっと君が僕に気付くのは難しいことなんだろう。でも、僕はもう少しだけ待ってあげる。みんなとは違って気は長い方なんだ。それに馬鹿にされたって構わない。君が気づいてくれるのならね。だからさ、早く気付いてよ。知りたくて仕方が無いんだ。君の世界を。君のことを。
僕は口元が緩むのを抑えきれずに、笑ってしまった。
もうすぐ・・・だよね・・・。


昨日は晴れていたけど、今日はあいにくの雨。雨はあまり好きじゃない。
学校帰りの僕は、雨が降っている時は寄り道せずにすぐに家に帰るのだが、あの水たまりが非常に気になってしまい、お気に入りでもない傘をさして、またここに来ていた。なぜこんな物が気になるのだろう。
雨のせいで、水たまりには小さな波紋がポツポツと広がっていた。それを僕はかがんで覗き込んだ。
「はぁ・・・・」
僕は小さくため息をついた。雨の日は憂欝で仕方が無い。傘に落ちる雨の音が耳触りで仕方が無いうえに、土のにおいが時々鼻につくから嫌だ。
こんな日に何で僕はこんなところにいるんだろうと、心底思った。
すると、突然水たまりに大きな波紋が広がった。


昨日は雨だったけど、今日は残念なことに晴れ。太陽はあまり好きじゃない。
晴れの日はあまり外に出ない。でも、仕方が無かったんだ。あの水たまりがいつもより気になっていたから。僕は昨日より早く、お気に入りの傘を持ってここに来ていた。またあの感覚がする。
雨は降っていないが、水たまりには小さな波紋がポツポツと広がっていた。それを僕はかがんで覗き込んでいる。
「やれやれ・・・・」
僕は小さく呟いた。晴れの日は憂欝で仕方が無い。肌に降り注ぐ日の光がなぜか頭痛を呼び起こし、眩しくて上も向けない。
こんな日にまでここに来る自分に、僕は少しだけ呆れた。
そして、僕は思い切って水たまりに手を突っ込んだ。


「・・・?」
僕は灰色の空を見上げた。次に水たまりを見る。なんであんな大きな波紋が広がったんだろう。何か落ちてきた形跡もない。不思議で仕方が無い。
「おーい。聞こえてますかー?」
僕は水たまりに突っ込んだ手を抜かずに、ゆっくりと地面につけた。固く冷たい地面。何の反応もない。悔しくて仕方が無い。
「まさかね」
誰かに呼ばれた気がした。不意に昔のことが思い出される。もし、僕の言ったことが本当だったら、あの時僕を笑ったあの二人は、どんな顔をするんだろう?
ゆっくり水たまりに手を伸ばす。水面に指が触れた。すると。
「あ、雨上がった」
傘を叩く耳障りな音が消え、優しい日差しが見える。
「あ、雨降って来た」
眩しい目ざわりな光が消え、冷たい雨が降って来た。
僕は差していた傘をたたんで、立ち上がった。
僕は置いていた傘をさして、立ち上がった。
指についた水を拭くことなく、そのまま拳を作った。
手についた水を振って乾かし、手をそのまま開いておいた。
振りかえって、水たまりに背を向けた。
水たまりをまたいで、背を向けた。
「またね」
僕は無表情でそう呟いた。
「バイバイ」
僕は笑顔でそう呟いた。
そうして僕は、その場を去って行った。
作品名:気づかない雨の世界 作家名:Schwarze